この記事の監修 山本 貴大 / ケンテク編集長

150社以上のマーケティング/コンサルティング支援実績。認定支援機関と連携した補助金計画書の作成支援も手がける。

現場監督が移動に時間を取られ、熟練者が少なくなり、検査記録の作成にも追われる。建設現場 スマートグラス 活用は、こうした現場の詰まりを減らす選択肢です。作業者の視界を遠隔地の技術者と共有し、指示や図面を重ね、写真・動画を記録することで、立会い、検査、教育のやり方が変わります。

スマートグラスとは何か

スマートグラスは、メガネ型またはヘッドマウント型のウェアラブル端末です。カメラ、マイク、スピーカー、ディスプレイ、通信機能を備え、装着者の視界を撮影しながら、遠隔地の相手と映像・音声を共有できます。製品によっては、AR(拡張現実)で図面や指示を視界に重ねたり、音声操作で写真撮影や通話を行ったりできます。

建設現場で重要なのは、両手が空くことです。スマートフォンやタブレットで通話しながら作業すると、片手が塞がり、安全面でも効率面でも問題があります。スマートグラスなら、ヘルメットや保護具と組み合わせ、作業者の目線で状況を共有できます。

AR型と遠隔支援型

スマートグラスには、大きくAR/MR型と遠隔支援型があります。AR/MR型は、現実の視界に3Dモデル、図面、矢印、作業手順を重ねる用途に向きます。Microsoft HoloLensのような製品が代表例です。遠隔支援型は、カメラ映像と音声通話を中心に、現場と事務所・本社・メーカー技術者をつなぐ用途に向きます。RealWearやMOVERIOなどがこの領域で使われます。

中小建設会社が最初に導入するなら、遠隔支援型のほうが現実的です。配筋検査、設備トラブル、遠隔臨場、安全巡視など、既存業務に乗せやすく、操作も比較的シンプルです。

建設現場での活用シーン

遠隔臨場

国土交通省の直轄工事では、受発注者の移動時間削減や効率化を目的に遠隔臨場の活用が進んでいます。スマートグラスを使えば、発注者や監督職員が現場へ移動せず、作業者の目線映像を見ながら材料確認、段階確認、立会いを行えます。

遠隔管理の延長として考えると分かりやすいでしょう。固定カメラでは見えにくい箇所も、装着者が近づいて確認できます。現場側は両手を空けたまま測定や撮影ができるため、タブレットを持って移動するより安全です。

配筋検査・設備検査

配筋ピッチ、かぶり厚、スリーブ位置、設備配管の納まりは、図面との照合が必要です。スマートグラスで映像を共有しながら、事務所側の担当者が「右側の定着長をもう少し寄って見せてください」「この通り芯を確認してください」と指示できます。写真や動画をそのまま検査記録として残せるサービスなら、報告書作成の手間も減ります。

施工指示・トラブル対応

メーカー設備の不具合、特殊納まり、初めて扱う工法では、現場に詳しい技術者がすぐ来られないことがあります。スマートグラスで現場映像を共有すれば、遠隔地の技術者がリアルタイムに指示できます。電話だけでは伝わらない「どの部品のどの向きか」が映像で共有できるため、手戻りを減らせます。

安全巡視・教育

安全担当者が遠隔で現場の巡視に参加し、開口部、足場、重機動線、保護具着用を確認する使い方もあります。新人教育では、熟練者が装着したスマートグラス映像を教材化し、段取りや注意点を共有できます。労災防止DXの一部として、AIカメラやデジタルKYと組み合わせると安全管理の記録が厚くなります。

スマートグラスは、現場のすべてを解決する万能端末ではありません。最初は「遠隔立会い」「専門技術者への相談」「検査記録」のように、移動時間や手戻りが大きい業務に絞って使うと効果が出やすくなります。

主要製品と特徴

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スマートグラスは製品ごとに得意分野が違います。現場で使う場合は、画面の綺麗さよりも、装着性、堅牢性、バッテリー、通信、ヘルメット対応を重視してください。

RealWear

RealWearは、産業現場向けのヘッドマウント端末として知られています。小型ディスプレイを片目側に配置し、音声操作で通話や撮影を行います。手袋をしたまま操作しやすく、防塵・防水や耐衝撃を重視した設計のため、建設・製造・保守の現場で使いやすい製品です。

Microsoft HoloLens

HoloLensはMR(複合現実)端末で、3DモデルやBIMデータを現実空間に重ねる用途に向きます。BIMモデルを現場に重ね、納まり確認や干渉チェックに活用する事例があります。一方で価格は高めで、装着感や屋外視認性、現場の粉じん環境への対応を事前に確認する必要があります。

Epson MOVERIO

MOVERIOは、メガネ型の透過ディスプレイを備えたスマートグラスです。比較的軽量で、映像確認や遠隔支援、ドローン操縦支援などに使われます。ヘルメットや保護メガネとの相性、屋外での見え方、カメラ・マイクの仕様を確認して選定してください。

スマートフォン併用型サービス

専用端末ではなく、スマートフォン、ウェアラブルカメラ、骨伝導ヘッドセットを組み合わせるサービスもあります。初期費用を抑えられ、既存の端末を活用しやすい点がメリットです。ただし、両手が空くか、映像が安定するか、雨天時に使えるかは現場テストが必要です。

活用シーン別の製品選定ガイド

活用シーン向いている端末重視する条件
遠隔臨場RealWear、MOVERIO、スマホ併用型映像安定性、音声品質、録画、長時間装着
配筋・設備検査RealWear、MOVERIO近接撮影、写真解像度、記録出力
BIM重ね合わせHoloLens系MR端末3D表示、空間認識、BIM連携
安全巡視RealWear、スマホ併用型防塵防水、ヘルメット装着、操作性
メーカー遠隔支援RealWear、MOVERIO通話品質、画角、外部参加者招待

製品選定では、端末単体ではなく、遠隔支援ソフト、録画保存、権限管理、帳票出力、サポート体制まで含めて比較します。施工管理アプリと連携できるサービスなら、写真や検査記録を案件ごとに管理しやすくなります。

導入コストと運用費

スマートグラスのコストは、端末代、遠隔支援ソフト利用料、通信費、保守費、初期設定費に分かれます。端末代は簡易なウェアラブルカメラ型で数万円から、産業用スマートグラスで十数万円から数十万円、MR端末ではさらに高額になることがあります。遠隔支援ソフトは1ユーザーまたは1端末あたり月額課金が多く、録画保存容量や同時接続数で料金が変わります。

通信費も見落とせません。高画質の映像通話はデータ通信量が大きく、山間部、地下、トンネル、鉄骨が多い建物内では通信が不安定になることがあります。モバイルルーター、5G端末、現場Wi-Fi、録画後アップロードのどれを使うか、現場ごとに決める必要があります。

中小建設会社の導入事例

中小企業では、1〜2台を共有端末として導入し、検査日やトラブル対応日に現場へ持ち出す使い方が現実的です。たとえば設備工事会社が、メーカー技術者との遠隔支援用に1台導入し、移動を伴う立会いを月数回削減する。土木会社が、発注者との遠隔臨場に使い、片道1時間の移動を減らす。建築会社が、配筋検査の記録と社内確認に使い、写真整理の時間を短縮する。こうした小さな用途から始めるほうが定着します。

遠隔臨場制度との関係

遠隔臨場では、映像と音声で現場状況を確認し、必要な記録を残すことが求められます。スマートグラスは、監督職員や発注者が確認したい箇所へ作業者が移動し、目線映像を共有できるため、制度運用と相性があります。

ただし、発注者ごとに必要な映像品質、録画保存、通信方式、事前協議の内容が異なります。公共工事で使う場合は、発注者の要領、特記仕様書、現場説明書を確認し、事前に使用機材、接続方法、記録方法を協議してください。

i-Constructionの流れでは、現場の生産性向上とデータ活用が重視されています。スマートグラスは、遠隔臨場だけでなく、施工プロセスの記録、若手教育、維持管理へのデータ引き継ぎにも使える技術です。

スマートグラス導入で最も多い失敗は、通信確認をせずに本番検査へ使うことです。現場の電波、音声の聞こえ方、バッテリー、録画保存を必ず事前テストしてください。

導入を成功させる手順

導入前に、削減したい移動時間や手戻りを数字で出します。遠隔立会いが月何回あるか、専門技術者の移動に何時間かかるか、検査記録作成に何時間かかるか。ここを把握すると、端末代や月額費用の回収見込みを説明しやすくなります。

試行は1現場、1用途から始めます。遠隔臨場なら発注者と事前協議し、テスト接続を行う。社内検査なら現場監督と本社技術者で操作練習をする。メーカー支援なら外部参加者の招待方法を確認する。試行後に、映像品質、操作時間、記録の使いやすさ、現場の負担を評価します。

補助金を使う場合は、IT導入補助金やものづくり補助金の対象になり得るか確認します。クラウド型の遠隔支援ソフトはITツールとして検討できる場合がありますが、端末ハードウェアの扱いは制度ごとに異なります。2026年度の公募要領と登録ツールを必ず確認してください。

現場テストで確認するチェックポイント

スマートグラスは、カタログ上の機能より現場での使い勝手が重要です。導入前のテストでは、少なくとも半日、実際の現場で装着して確認してください。会議室では問題なくても、屋外の直射日光、粉じん、騒音、手袋、ヘルメット、汗で使い勝手が変わります。

映像では、相手が見たい箇所にピントが合うか、手元作業と全体状況を切り替えられるかを確認します。配筋や設備検査では近接撮影が多く、遠隔臨場では周囲状況も必要です。画角が狭すぎると相手が位置関係を把握しにくく、広すぎると細部が見えません。

音声も重要です。建設現場では重機、発電機、切断音、風音が入り、通話品質が下がります。骨伝導ヘッドセットやノイズキャンセルマイクが必要になる場合があります。発注者やメーカー技術者との通話で聞き返しが多いと、遠隔化の効果は薄れます。

装着性は、30分ではなく2時間以上で確認してください。重量、締め付け、汗、ヘルメットとの干渉、保護メガネとの相性は、長く使って初めて分かります。現場で複数人が共有する場合は、装着調整の時間や衛生管理も運用に含めます。

記録については、録画ファイルの保存先、ファイル名、案件への紐付け、発注者への提出形式を確認します。映像を撮っただけで、どの工事のどの検査か分からなくなると、後処理に時間がかかります。施工管理アプリやクラウドストレージと連携できるかも、実運用では大きな差になります。

安全面では、装着者の視界を妨げないかを確認します。表示情報が多すぎると、足元や周囲への注意が落ちることがあります。歩行中は画面を見ない、重機周辺では通話を止める、高所作業では装着ルールを限定するなど、使わない場面を決めることも安全管理です。

社内ルールとして、録画対象と録画禁止場所も整理します。作業員の顔、近隣住民、発注者資料、企業秘密が映り込む可能性があります。映像データの保存期間、共有先、削除方法を決め、協力会社にも説明しておくと、プライバシー面の不安を抑えられます。便利な端末ほど、映像管理のルールが欠かせません。

導入後は、削減できた移動時間を記録します。遠隔臨場1回で何時間の移動が減ったか、メーカー支援で何日手戻りを防げたか、検査記録作成が何分短縮されたかを残すと、端末追加や更新時の判断材料になります。

よくある質問

Wi-Fiがない現場でもスマートグラスは使えますか?
モバイル回線やモバイルルーターを使えば利用できます。ただし高画質の映像通話は通信量が大きく、山間部、地下、トンネル内では不安定になることがあります。現場で事前に通信テストを行い、必要に応じて録画後アップロードや低画質モードを使ってください。
スマートグラスのバッテリーはどのくらい持ちますか?
製品や利用方法によりますが、映像通話を続けると数時間程度で充電が必要になることがあります。長時間の遠隔臨場や安全巡視では予備バッテリー、充電場所、休憩時の充電ルールを用意してください。購入前に連続通話時間を確認しましょう。
スマートグラス導入に補助金は使えますか?
クラウド型の遠隔支援ソフトや施工管理システム部分は、IT導入補助金の対象になる可能性があります。端末ハードウェアの扱いは制度や年度で変わるため、2026年度の公募要領と登録ツールを確認してください。生産性向上投資としてものづくり補助金を検討できる場合もあります。

参考情報