この記事の監修 山本 貴大 / ケンテク編集長

150社以上のマーケティング/コンサルティング支援実績。認定支援機関と連携した補助金計画書の作成支援も手がける。

橋梁やトンネルのコンクリート構造物を点検する — 従来は技術者が足場を組んで近接目視し、ひび割れの位置と幅をスケッチで記録する作業でした。1橋あたり数日を要し、高所作業のリスクも伴います。この点検業務を劇的に効率化するのが、AIによるひび割れ検出技術です。

カメラで撮影した画像をAIが解析し、コンクリート表面のひび割れを自動で検出・分類する。NEDOの実証では作業時間を従来の10分の1に短縮した事例が報告されており、国土交通省も「点検支援技術性能カタログ」に複数のAIひび割れ検出サービスを掲載して活用を推進しています。

この記事���は、AIひび割れ検出の仕組み、主要なサービスと精度、導入コストと費用対効果を解説します。

AIひび割れ���出とは — 従来の点検と何が変わるのか

従来の近接目視点検

道路法施行規則に基づく定期点検(5年に1回���では、橋梁やトンネルのコンクリート構造物に技術者が近接して目視点検を行い、ひび割れ・剥離・遊離石灰・鉄筋露出などの変状を記録します。点検結果は「健全」「予防保全段階」「早期措置段階」「緊急措置段階」の4段階で判定されます。

この作業は人の目と経験に依存するため、点検者によるバラつきが出やすく、高所・狭所での作業は安全リスクを伴います。さらに技術者の高齢化と人手不足が進む中、点検の効率化は喫緊の課題です。全国の橋梁約73万橋のうち、建設後50年を超える橋梁の割合は2033年に約63%に達する見込みで、点検対象は今後も増え続けます。

AI検出の仕組み

AIひび割れ検出は、ディープラーニング(深層学習)を用いた画像認識技術がベースです。大量のひび割れ画像を学習データとしてAIモデルを訓練し、新たな画像の中からひび割れの位置・長さ・幅を自動で検���します。

基本的な流れは以下の通りです。

  1. カメラ(デジタルカメラ・ドローン・車載カメラ等)でコンクリート表面を撮影
  2. 撮影画像をAI解析エンジンにアップロード
  3. AIがひび割れを自動検出し、位置・幅・長さを算出
  4. 検出結果を展開図(損傷図)として出力

この一連の処理が従来の手作業と比べて格段に速い。ドローンとの組み合わせで撮影自体も効率化すれば、足場を組む必要がなくなり、点検コストと安全リスクの両方を削減できます。

主要なAIひび割れ検出サービス

市場には複数のサービスが存在します。中小建設会社・点検会社が検討する際の参考として、主要なサービスの特徴を整理します。

富士フイルム「ひびみっけ」

国土交通省の「点検支援技術性能カタログ」に掲載されており、2026年1月時点で活用効果調査件数43件の実績を持つサービスです。画像をクラウドにアップロードすると、AIがひび割れを自動検出し、損傷図を生成します。JR東日本との共同開発では新幹線トンネルの検査に適用され、年間約1万時間の夜間作業削減を見込んでいます。

クラウド型のため導入のハードルが低く、既存のカメラで撮影した画像をアップロードするだけで利用できる点が中小企業にとってのメリットです。

大林組 画像解析ひび割れ自動検出技術

大林組が開発した技術で、撮影画像からひび割れを高精度に自動検出し、損傷図の作成を効率化します。大手ゼネコンの自社技術ですが、外部への技術提供も行われており、インフラ維持管理の現場で活用が広がっています。

キヤノン ひび割れ検知AI技術

キヤノンの画像処理技術とAIを組み合わせたひび割れ検知技術です。カメラメーカーならではの高解像度画像処理とAI解析の組み合わせが特徴で、微細なひび割れの検出精度に強みがあります。

PAL構造 橋梁点検・診断支援システム

中小企業庁のGo-Tech事業で開発されたシステムで、ひび割れ認識率85%を達成しています。従来の近接目視による点検方法と比較して工数・費用を概ね50%削減できることが確認されています。中小の点検会社向けに設計されている点が他のサービスとの差別化ポイントです。

Inspector1

NETIS(新技術情報提供システム)に登録されているひび割れ画像検出AIで、登録番号はKT-230291-Aです。コンクリート構造物の撮影画像からひび割れを自動検出し、展開図を生成します。NETISに登録されていることで、公共工事での技術提案に活用しやすい点がメリットです。

国土交通省の「点検支援技術性能カタログ」に掲載されているサービスは、一定の性能基準を満たしていることが第三者検証されています。サービスを選定する際は、カタログ掲載の有無を確認するのが安心です。

検出精度と限界

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現在の精度水準

AIひび割れ検出の精度は、幅0.2mm以上のひび割れであれば検出率80〜90%程度に達しているサ��ビスが多くなっています。PAL構造のシステムが85%の認識率を公表しているのは、この水準を代表する数字です。

ひび割れの「幅」の測定精度も向上しており、0.1mm単位での幅計測が可能なサービスも出てきています。点検調書に必要な「ひび割れ幅」の数値をAIが自動出力できれば、技術者の負担はさらに軽くなります。

検出精度を左右する要因として、撮影条件が非常に大きいことを押さえておく必要があります。同じAIモデルでも、撮影距離・照明角度・カメラの解像度によって結果が大きく変わります。最良の結果を得るには、AI側が推奨する撮影条件(コンクリート面からの距離、照度、解像度)を遵守した撮影プロトコルを策定し、撮影者に共有しておくことが大切です。

二時期比較による劣化進行の把握

AIひび割れ検出の応用として注目されているのが「二時期比較」です。1回目の点検データと2回目の点検データをAIが比較し、ひび割れの進展(幅の拡大・長さの延伸・新たなひび割れの発生)を自動で検出する機能です。富士フイルムの「ひびみっけ」やJR東日本との共同開発システムでこの機能が実装されています。

従来の手作業では、過去の損傷図と現在の状態を技術者が目視で比較する必要があり、膨大な時間がかかっていました。AIによる二時期比較が普及すれば、「どの部分が悪化しているか」を定量的に把握でき、補修の優先順位判断が科学的になります。維持管理の長期計画を策定するうえで、非常に有用な機能です。

検出が難しいケース

AIは万能ではありません。以下のようなケースでは検出精度が下がることがあります。

  • コンクリート表面が汚れ・コケ・水垢で覆われている場合
  • 照明条件が悪い(影が強い、逆光)場合
  • ひび割れと表面の目地・型枠痕の区別が難しい場合
  • 剥離や浮きなど、ひび割れ以��の変状との混在

このため、AIの検出結果は技術者が最終確認する「AIスクリーニング+人の判断」のハイブリッド運用が現実的です。AIが検出したひび割れの中から、技術者が健全性の判定を行う — という分業体制を前提に導入を検討してください。

導入コストと費用対効果

コストの目安

AIひび割れ検出サービスのコスト体系は「クラウド課金型」と「ライセンス型」の2種類に大別されます。

クラウド課金型は、画像のアップロード枚数や解析面積に応じて従量課金されるモデルです。初期費用が低く、年に数件の点検業務であれば月額数万円程度から利用できます。点検専業ではない中小建設会社が試験的に導入するにはこの方式が適しています。

ライセンス型は、年間利用料を固定で支払うモデルで、点検件数が多い企業向けです。年間数十万〜数百万円の費用がかかりますが、件数が増えるほど1件あたりのコストは下がります。

費用対効果の考え方

従来の近接目視点検では、1橋あたり数十万〜100万円以上の費用がかかります(足場費用を含む)。AI検出+ドローン撮影の組み合わせにより、足場の設置が不要になるケースでは点検コストを30〜50%削減できる可能性があります。

PAL構造の実証では工数・費用を約50%削減、NEDOの実証では作業時間を10分の1に短縮という結果が報告されています。これらの数字は現場条件によって変わりますが、「人の作業を大幅に効率化できる」ことは間違いありません。

IT導入補助金でクラウド型AIサービスの導入費用を抑え��れる可能性もあります。また、NETIS登録技術を公共工事で活用すれば技術提案で加点が得られるため、投資の回収を受注面からも考えることができます。

公共工事での活用と今後の展望

点検支援技術性能カタログの意義

国土交通省は2019年から「点検支援技術性能カタログ」を公表し、AIひび割れ検出を含む新技術の活用を推進しています。カタログに掲載されるには、第三者機関による性能検証を受ける必要があり、一定の品質基準が担保されています。公共工事の発注者がこのカタログを参照して新技術の活用を求めるケースが増えており、AIひび割れ検出への対応力は受注競争力に直結しつつあります。

i-Constructionとの関係

国土交通省が推進するi-Constructionは、建設現場の生産性を2025年度までに2割向上させる目標を掲げています。インフラ点検のDX化はこの政策の重要な柱であり、AIひび割れ検出はICT施工と並んでi-Constructionの具体的な実装例として位置づけられています。

今後は、点検データの蓄積が進むにつれてAIモデルの精度がさらに向上し、ひび割れだけでなく剥離・漏水・鉄筋腐食の予兆検知まで対応範囲が広がっていくと見られています。デジタルツイン技術と統合することで、構造物のライフサイクル全体を通じた維持管理の最適化が実現する — そんな未来図が描かれています。

中小建設会社にとっての意味

「インフラ点検のAI化は大手の話」と思われがちですが、実際には中小の点検会社こそAI活用のメリットが大きい。限られた技術者で多数の構造物を点検しなければならない状況で、AIが「下書き」を作ってくれれば、技術者は判断に集中できます。クラウド型サービスなら初期投資も抑えられるため、まずは自社の点検業務の一部にAIを組み込むところから始めてみてください。

導入を検討する際のチェックポイント

自社の点検業務に合ったサービスか

橋梁が中心なのか、トンネルなのか、建築物の外壁なのか。対象構造物によって適したサービスが異なります。橋梁に強いサービス、トンネルに特化したサービス、外壁タイルの剥離まで検出できるサービスなど、各社の得意分野を確認してください。

ドローンとの連携

ドローン調査で撮影した画像をそのままAI解析にかけられるか、画像フォーマットや解像度の要件を事前に確認しておく必要があります。ドローン撮影の解像度(ピクセル/mm)がAIの検出要件を満たしているかがポイントです。一般的に、幅0.2mmのひび割れを検出するには画素分解能0.1mm/ピクセル以下が推奨されています。

出力形式と既存システムとの連携

検出結果を展開図(CADデータ・PDF等)で出力できる��、既存の点検記録システムやBIMモデルと連携できるかを確認してください。点検結果をBIMに統合できれば、維持管理のデジタルツイン化への布石にもなります。

技術���の育成

AIツールを使いこなすには、操作研修だけでなく「AIの結果をどう解釈す���か」の教育が必要です。AIが検出したひび割れの中から、補修が必要な変状とそうでない変状を判別するのは、やはり技術者の役割です。AI導入と同時に、技術者の判断力を高める研修計画も立ててください。AIが出す結果の意味を理解し、誤検知と見逃しの傾向を把握したうえで最終判定を行える人材の育成が、AI活用の成否を分けます。

よくある質問

AIひび割れ検出の精度はどのくらいですか?
幅0.2mm以上のひび割れであれば検出率80〜90%程度に達しているサービスが多くなっています。PAL構造のシステムは認識率85%を公表しています。ただし、コンクリート表面の汚れや照明条件によって精度は変動するため、AIの検出結果は技術者が最終確認するハイブリッド運用が推奨されます。
AI���び割れ検出の導入費用はいくらですか?
クラウド課金型であれば月額数万円程度から始められます。ライセンス型は年間数十万〜数百万円です。点検専業ではない中小建設会社が試験的に導入するには、初期費用の低いクラウド課金型が適しています。IT導入補助金で導入コストを抑えられる場合もあります。
ドローンとAIひび割れ検出は組み合わせられますか?
はい。ドローンで撮影した画像をAI解��にかけることで、足場の設置なしにひび割れを検出できます。ドローン撮影の解像度がAIの検出要件(一般的に0.1mm/ピクセル以下)を満たしているかを事前に確認してください。ドローン+AIの組み合わせにより、点検コストを30〜50%削減できる可能性があります。
AIはひび割れ以外の変状も検出できますか?
サービスによります。ひび割れに加えて、剥離・漏水・遊離石灰・鉄筋露出などを検出できるサービスも登場しています。日経クロステックによると、業界初でコンクリートの剥離・漏水まで画像から自動検出するサービスも実用化されています。対象構造物と検出したい変状に応じてサービスを選定してください。
AIひび割れ検出は公共工事でも使えますか?
はい。国土交通省の「点検支援技術性能カタログ」に掲載されているサービスは公共工事でも活用できます。NETIS登録技術であれば技術提案で加点が得られる場合もあります。定期点検におけるAI活用は国土交通省も推進しており、今後さらに普及が進む見込みです。

参考情報