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用語集

デジタルツイン

でじたるついん

この記事の監修 山本 貴大 / ケンテク編集長

150プロジェクト以上のマーケティング/コンサルティング支援実績。認定支援機関と連携した補助金計画書の作成支援も手がける。

建物の「生きたコピー」をつくる——デジタルツインの可能性

製造業や航空宇宙の分野で発展した「デジタルツイン」という概念が、建設業とインフラ管理の世界に急速に広がっています。現実に存在する建物やインフラ構造物をデジタル空間上に高精度で再現し、IoTセンサーを通じてリアルタイムのデータを反映させることで、現実の状態と常に同期した動的なモデルを構築する技術です。単なる3Dモデルではなく、温度・振動・変位といった「今この瞬間の状態」をデータとして持ち続ける点が、デジタルツインの本質的な特徴です。

世界のデジタルツイン市場は2023年に約90億ドルに達し、2029年頃には900億ドルを超える見通しです(各種市場調査より)。建設・インフラ分野はその中でも高い成長率が見込まれています。

なぜ重要か

建設プロジェクトでは、設計段階で想定した条件と、実際の施工現場の状況にギャップが生じることが少なくありません。このギャップが手戻りやコスト超過の原因となり、プロジェクトの効率を下げてきました。

デジタルツインを活用すると、施工前にデジタル空間上で工事のシミュレーションを行い、問題点を事前に洗い出すことができます。施工中はIoTセンサーのデータと連携して進捗や品質をリアルタイムに監視し、竣工後は維持管理のための基盤データとして活用するという、建物のライフサイクル全体をカバーする運用が可能になります。

国土交通省はインフラ分野でのデジタルツイン構築を推進しており、道路、橋梁、河川などの国土情報を3次元デジタルデータとして整備する「Project PLATEAU」などの取り組みが進行しています。

具体的な内容・仕組み

デジタルツインは複数の技術要素を組み合わせて実現されます。基盤となるのは3次元モデル(BIMCIMで作成されたモデル)であり、そこにIoTセンサーからのリアルタイムデータ、3Dスキャナーやドローンで取得した点群データ、気象データなどが統合されます。

建設業におけるデジタルツインの活用場面は、プロジェクトのフェーズによって異なります。

設計段階では、建物や構造物のデジタルモデルを使って、日照シミュレーション、風環境シミュレーション、避難経路の検証などを行います。設計段階で多角的な検証を済ませることで、施工段階での設計変更を抑制できます。

施工段階では、計画モデルと実際の出来形をデジタル空間上で重ね合わせて比較し、施工精度の確認や進捗の可視化に活用します。4D-BIM(時間軸を加えたBIMモデル)と組み合わせることで、工程の最適化シミュレーションも可能です。

維持管理段階では、竣工後の建物にIoTセンサーを設置し、構造体のひずみ、温湿度、振動などのデータをリアルタイムに収集してデジタルモデルに反映します。劣化の兆候を早期に検知し、予防的な保全(プリベンティブメンテナンス)につなげることが期待されています。

フェーズデジタルツインの活用
設計シミュレーションによる設計検証、関係者間の合意形成
施工出来形管理、工程シミュレーション、安全管理
維持管理リアルタイム監視、劣化予測、修繕計画の最適化

デジタルツインとBIMの違い

デジタルツインとBIMはしばしば混同されますが、役割と運用の考え方が異なります。

BIMは建物の3次元モデルに属性情報(材料・コスト・仕様等)を付与して設計・施工・維持管理に活用する手法です。竣工後のモデルは「竣工BIM」として維持管理情報を追加していくことができますが、基本的には「設計・施工の記録」としての性質が強いといえます。

デジタルツインはBIMモデルをベースとしつつ、IoTセンサーが収集するリアルタイムデータと常時同期することで、「現実の建物の今の状態」を反映する動的なモデルを構築することに本質があります。BIMが「詳細な設計図書」であるとすれば、デジタルツインは「生きて動く建物のコピー」と表現できます。

建設業で実際に活用されているのは「静的なBIM」が大半ですが、AIやIoTとの統合が進むにつれ、将来的には多くのBIMがデジタルツイン化されていくと見込まれています。

建設業における具体的な活用事例

事例1:大型施設の施工シミュレーション

複数の大型クレーンが同時に稼働する超高層ビル工事で、4D-BIMを活用したシミュレーションを実施した事例があります。クレーン同士の干渉リスクと作業エリアの競合を事前にシミュレーションすることで、施工計画の最適化を実現しました。従来は経験則に基づいていた工程調整が定量的になり、稼働中断日数が約20%削減されたと報告されています。

事例2:橋梁の健全性モニタリング

老朽化した橋梁にひずみセンサーと振動センサーを設置し、橋梁のデジタルツインとリアルタイム同期するシステムを導入した事例があります。通常の維持管理コストの15〜20%がセンサー費用に相当しますが、従来の定期点検(2年に1回・数百万円)と比較して、予防的な修繕計画が立てられることで修繕費の総額が30〜40%削減できることが実証されています。

事例3:スマートビルのデジタルツイン

オフィスビルの竣工後に、空調・照明・セキュリティシステムをBIMモデルと連動させたデジタルツインを構築した事例があります。センサーデータをもとに空調の最適制御が行われることで、エネルギー消費量が従来比で15%削減されました。設備の異常検知も自動化され、対応が必要なトラブルの80%が実際の故障に発展する前に対処できるようになっています。

デジタルツインの構成技術

デジタルツインを構築するためには、複数の技術が組み合わさります。

3次元モデル(BIM/CIM)は、現実の建物・インフラの形状と属性情報を保持するベースレイヤーです。IoTセンサーは温度、湿度、振動、変位などの物理量を継続的に計測し、デジタルモデルへのリアルタイムデータを提供します。

3Dスキャナー・ドローンは、現実の状態を高精度に計測してデジタルモデルとの差分確認に使われます。AIは膨大なセンサーデータから異常パターンを検出したり、将来の劣化を予測したりする分析を担います。クラウドプラットフォームは、これらのデータを統合して処理・可視化する基盤となります。

導入コスト・費用の目安

デジタルツインの構築費用は、対象物の規模と精度によって大きく異なります。

建物1棟のBIMモデル作成費用は規模によって数十万〜数百万円程度です。IoTセンサーの設置費用は1センサーあたり数万〜数十万円程度(センサー機器費+通信費+設置工事費)で、建物に必要なセンサー数によって総費用が変わります。

データ管理・分析のためのクラウドプラットフォームは月額数万〜数十万円程度が一般的です。大規模インフラ(橋梁、トンネル等)のデジタルツインでは、数千万円〜数億円規模の投資になるケースもあります。

中小建設会社が現実的に取り組めるのは、まず竣工BIMの整備とセンサーを一部設備に設置する「部分的なデジタルツイン」からのスタートです。建物の重要設備(空調、受変電設備等)にIoTセンサーを設置するだけでも、維持管理の効率化が見込めます。

最新動向(2024〜2026年)

Project PLATEAUの進展

国土交通省が推進する3D都市モデル整備プロジェクト「Project PLATEAU」は、2025年時点で全国100以上の都市で3D都市モデルが整備され、オープンデータとして公開されています。建設会社にとっては、周辺環境の3Dモデルを無料で活用できる基盤として、新規建設時の周辺環境シミュレーションなどへの活用が進んでいます。

AIとの統合深化

生成AI技術がデジタルツインに組み込まれ、センサーデータの異常検知精度が大幅に向上しています。過去のデータパターンから将来の劣化を予測する「予知保全」の実用性が高まっており、インフラ管理コストの大幅削減が期待されています。

施工段階でのデジタルツイン活用拡大

従来は維持管理段階での活用が中心だったデジタルツインですが、施工段階でのリアルタイム進捗管理や品質管理への適用が増えています。特に大型公共工事では、発注者がデジタルツインを活用した施工管理を要求するケースが出始めています。

建物のカーボン管理との連携

脱炭素化の潮流の中で、建物のエネルギー消費量をデジタルツインでリアルタイム監視し、CO2排出量の削減管理に活用する動きが広がっています。建設業のスコープ3(使用段階での排出)への対応においても、デジタルツインが重要な役割を担うと見込まれています。

よく混同される概念・注意点

デジタルツインとシミュレーションの違い

デジタルツインとシミュレーションは似ているように見えますが、本質的な違いがあります。シミュレーションは想定した条件のもとで動作を予測する「仮想的な実験」であり、現実とリアルタイムに連動しません。デジタルツインは現実の状態を常に反映しており、リアルタイムデータに基づいた意思決定支援を提供します。

「デジタルツインを導入した」と言っても、実際はリアルタイム連動のない3Dモデルを作っただけのケースも見られます。デジタルツインの本質は「現実との同期」にある点を理解したうえで、目的に合った導入範囲を設定することが重要です。

データセキュリティとプライバシー

デジタルツインには建物の詳細な構造情報や利用者の行動データが含まれることがあります。特にスマートビルのデジタルツインでは、入退室データや空間利用パターンといった個人に関わるデータが蓄積されるため、情報セキュリティとプライバシーへの配慮が必要です。データの保管場所、アクセス権限、第三者への提供ルールを事前に明確にしておくことが重要です。

中小建設会社への影響

デジタルツインは現時点では大手ゼネコンや発注者主導で推進されている技術であり、中小建設会社が独自にデジタルツインを構築するケースはまだ少数です。

しかし、デジタルツインの基盤となるBIMやICT施工の技術に対応しておくことは、将来的にデジタルツインの恩恵を受けるための準備として重要です。BIMモデルの作成・閲覧スキル(BIMソフト比較も参考に)、IoTデバイスの活用経験、3Dスキャナーによる計測技術などは、デジタルツイン時代に求められる基礎的な技術力です。

維持管理の分野では、比較的小規模な建物や設備に対してもデジタルツイン的なアプローチを取り入れる動きが始まっています。建物の図面データとセンサーデータを紐づけて管理するだけでも、従来の紙ベースの維持管理台帳と比べて大きな効率化が見込めます。

協力会社・専門工事業者の立場からも、デジタルツインを前提とした大型プロジェクトへの参加機会が増えてきます。BIMデータの作成・提出に対応できる体制を今から整えておくことが、将来の受注機会を広げることにつながります。

参考情報

よくある質問

デジタルツインとBIMはどう違うのですか?
BIMは建物の3次元モデルに属性情報を付与して設計・施工に活用する手法です。デジタルツインはBIMモデルをベースとしつつ、IoTセンサーのリアルタイムデータと連携させて、現実の建物の状態を常に反映する点が異なります。BIMが「設計図」だとすれば、デジタルツインは「生きた建物のコピー」というイメージです。
デジタルツインの構築にはどのくらいの費用がかかりますか?
構築の規模や精度によって費用は大きく異なります。大規模なインフラのデジタルツインでは数千万円以上の投資が必要ですが、建物単体の3Dモデル作成とセンサー設置であれば数百万円台から取り組める場合もあります。まずはBIMモデルの整備から着手し、段階的にIoTデータとの連携を進めるアプローチが現実的です。
デジタルツインは中小建設会社にも関係がありますか?
直接的にデジタルツインを構築する機会は現時点では限定的ですが、発注者やゼネコンがデジタルツインを前提としたプロジェクトを増やしている中で、協力会社にもBIMやICTへの対応力が求められるようになっています。まずはBIMの基礎知識やICT施工の経験を積んでおくことが、デジタルツイン時代への準備になります。
Project PLATEAUとはどのような取り組みですか?
Project PLATEAUは国土交通省が推進する3D都市モデルの整備・活用プロジェクトです。全国各都市の建物・道路・地形などの3次元データを整備し、オープンデータとして公開することで、都市計画・防災・建設など様々な分野での活用を促進しています。整備されたデータは無料でダウンロードでき、建設プロジェクトの周辺環境分析などに活用できます。

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