この記事の監修 山本 貴大 / ケンテク編集長

150社以上のマーケティング/コンサルティング支援実績。認定支援機関と連携した補助金計画書の作成支援も手がける。

建設業のDX現状 — 他業種に比べてどれだけ遅れているか

「DXしなければ」という焦りを感じている経営者は多いですが、実際に自社がどのくらいの位置にいるのかを知ることが出発点です。

経済産業省の「DX推進指標」に基づく調査では、日本企業全体の約95%がDXに着手しているものの、本格的なDXが進んでいるのは約5%にとどまっています。建設業は製造業・金融業と比べてDX化が遅れており、日本生産性本部の2024年調査では「ICT活用が進んでいる業種」の上位に建設業は入っていません。

一方で、建設業のDX化は急ピッチで進み始めています。国土交通省の「建設業のDX推進ロードマップ」(2024年策定)では、2030年までに現場の生産性を20%以上向上させる目標が掲げられており、そのためのデジタルツール普及が行政主導で推進されています。

建設業のDX化率(何らかのデジタルツールを業務で活用している会社の割合)はここ3年で急上昇しており、特に施工管理アプリの利用率は2021年の約20%から2024年には約42%へと倍増しています(MM総研調べ)。大手・準大手ゼネコンはほぼ100%がDX推進中であり、元請けからデジタルツールへの対応を求められる機会が増えています。

「まだ様子を見ている」という状態が続くと、元請けの要件に対応できず受注機会を失うリスクが現実化します。重要なのは、完璧なDX計画を立てることではなく「最初の1つ」を始めることです。

「DXしなきゃ」と思いつつ、何もできていない経営者へ

建設業の経営者から最も多く聞く悩みがこれです。

  • 「DXが大事なのはわかる。でも何から手を付ければいいのかわからない」
  • 「アプリを入れたけど、現場が使ってくれなくて結局紙に戻った」
  • 「IT企業の営業に勧められるままツールを入れたが、効果が見えない」

DXの失敗パターンには共通点があります。「ツールから入る」と失敗し、「課題から入る」と成功する。この違いが明暗を分けています。

DXの前に確認すべきこと — 「デジタル化」と「DX」の違い

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デジタル化DX
定義紙をデジタルに置き換えるデジタルを使って業務の仕組みそのものを変える
紙の日報をExcelにする日報・勤怠・原価管理を一元化し、リアルタイムで経営判断に使う
効果作業時間の短縮経営の意思決定スピードの向上

中小建設会社はまず「デジタル化」から始めて、段階的に「DX」に進むのが現実的です。いきなりDXを目指す必要はありません。

段階的に進める建設業のDX

1

自社の「ムダな時間」を洗い出す

1週間、自分と社員の業務時間を記録。現場写真の整理、日報作成、勤怠集計など、どの業務に何時間かかっているかを把握する。

2

最も効果が大きい1つの課題を選ぶ

洗い出したムダの中から、月間の浪費時間・関わる人数・デジタル化の難易度で優先度をつけ、1つに絞る。中小建設会社は勤怠管理か現場写真管理がおすすめ。

3

ツールを3つ比較して1つ選ぶ

建設業の導入実績、スマホ対応、操作の簡単さ、料金、補助金対応、サポート体制の6項目で比較。10個も比較すると決められなくなるため3つに絞る。

4

1つの現場で小さく始める

ITに強い社員2〜3名で1週間試し、次に1つの現場全員で2〜3週間運用。問題点を改善してマニュアルを作ってから他の現場に展開する。

5

効果を数字で測定し次のステップへ

導入後3ヶ月で業務時間のBefore/After、残業時間の変化、ペーパーレス化率、社員満足度を測定。効果が確認できたら次の課題に取り組む。

まずは自社の「ムダな時間」を洗い出す

DXの目的は「ツールを入れること」ではなく「ムダな時間を減らすこと」です。まず、自社でどこに時間がかかっているかを把握しましょう。

建設業でよくある「ムダな時間」を表にまとめました。

業務ムダの内容月間の浪費時間(目安)
現場写真の整理撮った写真をPCに取り込み、フォルダ分け、台帳作成20時間
日報作成手書きの日報を事務所でExcelに転記10時間
勤怠集計手書きの出勤簿を月末にまとめて集計24時間(3日分)
工程表の更新ホワイトボードや紙の工程表を手動で修正8時間
見積書作成過去の見積もりを探し、コピーして修正15時間
書類の探しもの紙の図面・書類をキャビネットから探す5時間

やり方はシンプルです。1週間、自分と社員の業務時間を記録してみてください。「これ、本当に必要な作業か?」と問いかけるだけで、驚くほどムダが見えてきます。

最も効果が大きい1つを選ぶ

洗い出したムダの中から、最もインパクトが大きい1つを選びます。

選び方の基準は3つあります。月に何時間ムダにしているか(多い順)、関わる人数が多いか(全員に影響するものが優先)、デジタル化の難易度が低いか(簡単なものから着手)で判断しましょう。

中小建設会社で最初に手を付けるべきは「勤怠管理」か「現場写真管理」のどちらかです。

理由は明確で、全社員に影響するため効果が大きく、スマホ1つで始められるため難易度が低く、法令対応(2024年問題対策)にもなるためです。

ツールを3つ比較して1つ選ぶ

1つに絞った課題に対して、ツールを3つだけ比較します。10個も20個も比較すると決められなくなります。

比較する際のポイントを以下の表にまとめました。

項目確認すること
建設業の導入実績建設会社での実績があるか。オフィス向けツールは現場に合わないことが多い
スマホ対応現場でPCは使えない。スマホだけで完結するか
操作の簡単さ50代・60代の職人でも使えるか
料金月額いくらか。初期費用はあるか
デジタル化・AI導入補助金対応補助金を使って導入できるか(※最新の登録状況は公式サイトでご確認ください)
サポート体制導入後のサポートは充実しているか。電話対応はあるか

当サイトの比較記事を参考にしてください。

小さく始めて、全社に広げる

いきなり全現場に導入してはいけません。まず1つの現場で試して、うまくいったら他の現場に展開します。

パイロット運用の進め方は以下のとおり。

期間やること
1週目ITに強い社員2〜3名で試す
2〜3週目1つの現場全員で試す。問題点を洗い出す
4週目問題点を改善。使い方のマニュアルを作る
2ヶ月目〜他の現場に順次展開

現場から反発が出た時は、以下のように対処します。

  • 「紙のほうが早い」→ 「慣れるまでの2週間だけ付き合ってほしい」と期限を決める
  • 「こんなの使えない」→ 具体的にどこが使いにくいかを聞き、ベンダーに改善要望を出す
  • 「面倒くさい」→ 経営者が率先して使う姿を見せる

効果を数字で測定し、次のステップへ

導入後3ヶ月で、効果を数字で測定します。

測定すべき指標は、Before/Afterの業務時間(月何時間減ったか)、残業時間の変化、ペーパーレス化率(紙の使用量の変化)、社員の満足度(使いやすさのアンケート)の4つです。

効果が確認できたら、次の課題に取り組みます。

典型的なDXの進め方:

1. 勤怠管理のデジタル化(3ヶ月)

2. 現場写真・施工管理アプリの導入(3ヶ月)

3. 会計・原価管理のデジタル化(3ヶ月)

4. 各ツールの連携(データの一元管理)

5. データに基づく経営判断(本当のDX)

2024年問題とDXの関係 — 法令対応とDXを同時に進める

2024年4月から建設業にも時間外労働の上限規制(年720時間・月100時間未満)が適用されました。この規制に対応するには、以下の2つが必要です。

  1. 残業時間を正確に把握・記録する(勤怠管理のデジタル化)
  2. 工程を効率化して残業そのものを減らす(施工管理・工程管理のDX)

つまり「2024年問題への対応」と「DXの推進」は、同じ方向を向いています。法令対応の名目でDX投資を正当化できるため、社内への説明・説得がしやすいタイミングでもあります。

国土交通省の調査によると、2024年問題への対応策として最も多く採用されているのは「勤怠管理のデジタル化」(回答企業の約56%)、次いで「工程管理の効率化」(約43%)です。DXの入口として勤怠管理を選ぶ建設会社が多いのは、法令対応という明確なゴールがあるためです。

規模別・最初の1年のDXロードマップ

会社の規模によって、DXを進める最適な順序は異なります。

1人親方〜5名の場合: 最初の3ヶ月は電子契約(クラウドサインなど月額数千円)と勤怠管理(無料〜月額数千円)に絞ります。元請けからの要求に対応しながら、自身の管理業務の効率化が同時に実現します。

6〜20名の場合: フェーズ1(0〜3ヶ月): 勤怠管理の導入(2024年問題対応) フェーズ2(4〜6ヶ月): 施工管理アプリの導入(写真・日報のデジタル化) フェーズ3(7〜12ヶ月): 原価管理ソフトの導入(工事別収支の見える化)

21〜50名の場合: 上記に加えて、会計ソフトと原価管理の連携(完成工事台帳・経審対応)、工程管理ソフトの導入、電子帳簿保存法への対応を12ヶ月で段階的に整備します。

どの規模でも共通するのは「1ツールずつ、3ヶ月かけて定着させてから次に進む」という原則です。焦って複数のツールを同時導入すると、現場が混乱してすべてが中途半端になります。

DXによる費用削減効果の試算 — 20名規模の建設会社の場合

DXに投資するかどうかを経営判断するには、費用対効果の試算が必要です。以下は20名規模の建設会社が勤怠管理と施工管理アプリを導入した場合の試算例です。

導入前のコスト:

  • 勤怠集計(月末に経理担当が3日間): 年間36日分の人件費 = 約54万円
  • 日報作成・転記(現場監督3名 × 30分/日 × 250日): 年間375時間 = 約75万円
  • 写真整理・台帳作成(現場監督3名 × 1時間/日 × 250日): 年間750時間 = 約150万円
  • 合計: 年間約279万円の間接費用

導入後のコスト削減:

  • 勤怠集計の自動化で年間約40万円削減(80%削減)
  • 日報・写真の自動化で年間約150万円削減(60%削減)
  • 合計: 年間約190万円の削減

ツールの年間費用(目安): 勤怠5万円 + 施工管理30万円 = 35万円 差し引き効果: 190万円 - 35万円 = 年間約155万円のコスト削減

この試算はあくまで目安ですが、実際の導入事例でも同様の削減効果が報告されています。IT導入補助金(補助率1/2〜2/3)を活用すれば、初期費用はさらに抑えられます。

設計フェーズまで踏み込んでDXを進める場合は、3D設計のBIM導入も検討対象になります。BIMの基礎・導入費用・CIMやi-Constructionとの違いは、BIMとは|建設業向け 3D設計のメリット・導入費用ガイド にまとめています。

DXに失敗する建設会社の3つの共通点

1. ツールから入る

「ANDPADが流行っているらしい」→ とりあえず導入 → 課題と合っていない → 使われない → 解約

正解は課題から入ること。「現場写真の整理に月20時間かかっている」→ この課題を解決できるツールを探す。

2. トップが使わない

経営者が「お前ら使え」と言うだけで自分は使わない → 社員は「本気じゃないな」と感じる → 浸透しない

正解は経営者が最初のユーザーになること。朝礼で「今日から私もこのアプリで日報を出す」と宣言する。

3. 一気に全部やろうとする

勤怠も工程も会計も写真も全部一気にデジタル化 → 現場が混乱 → 「やっぱり紙のほうが楽」に逆戻り

正解は1つずつ取り組むこと。最初の3ヶ月は1つのツールだけに集中しましょう。

建設業のDXにかかる費用の目安

ツール月額費用(20名の会社)補助金適用後(目安)
勤怠管理4,000〜6,000円/月2,000〜3,000円/月
施工管理アプリ20,000〜50,000円/月10,000〜25,000円/月
クラウド会計3,000〜5,000円/月750〜2,500円/月
安全管理アプリ10,000〜30,000円/月5,000〜15,000円/月

※補助率は年度により変更の可能性あり

デジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)を使えば、導入コストを大幅に抑えてDXが実現できます。

詳しくは「建設業のIT導入補助金活用ガイド」をご覧ください。

IT導入補助金を使ったDXのコスト削減

建設会社がDXツールを導入する際、最も活用したいのがデジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)です。2026年度は補助率1/2〜2/3、上限が最大450万円まで引き上げられており、勤怠管理・施工管理・会計ソフトなど建設業向けのITツールが幅広く対象となっています。

補助金の申請から受給までの流れはおおむね以下のとおりです。

フェーズ期間やること
1. 事前申請導入の1〜2ヶ月前IT導入支援事業者(ベンダー)と契約し、補助金申請をサポートしてもらう
2. 採択通知申請から1〜2ヶ月後採択通知を受けてからツールの購入・契約を行う(事前購入は補助対象外)
3. 導入・実績報告採択後6ヶ月以内ツールを導入し、実績報告書を提出する
4. 補助金受給実績報告後1〜2ヶ月審査通過後に補助金が振り込まれる

ポイントは「採択通知の前にツールを購入・契約してはいけない」ことです。先行して契約してしまうと補助対象外になるため、申請手続きが完了してから発注するよう注意してください。

導入を検討しているツールのベンダーが「IT導入補助金対応ベンダー」として登録されているかどうかは、IT導入補助金公式サイトのITツール検索で確認できます。

建設会社のDX推進事例 — 実際に始めた3社

事例1: 従業員8名の外壁塗装会社(東京都)

課題: 現場写真の整理に月30時間、日報の転記に月15時間かかっていた。

解決策: 施工管理アプリ「ANDPAD」を導入。スマホで写真を撮ると自動的にクラウドに保存・分類される機能を活用。

結果: 写真整理が月5時間に短縮(83%削減)。日報のExcel転記がほぼゼロに。月間45時間の削減を達成し、経営者が「現場から帰ってきて事務作業に費やす時間がなくなった」とコメント。

事例2: 従業員25名の大工・内装工事会社(大阪府)

課題: 勤怠管理を手書きで行っており、月末の集計に経理担当が3日かかっていた。2024年問題への対応も迫られていた。

解決策: クラウド勤怠管理サービスを導入。全社員にスマホアプリで打刻させ、月末に自動集計。

結果: 月末の集計作業が半日に短縮(83%削減)。残業時間の見える化により、協力会社との工程調整を前倒しで行えるようになった。年間約48万円のコスト削減を達成。

事例3: 従業員15名の電気設備工事会社(愛知県)

課題: 見積書の作成に1件あたり2〜3時間かかっていた。過去の見積もりを探し出し、手作業で修正する工程が非効率だった。

解決策: クラウド型積算ソフトを導入。工種・材料ごとの単価をデータベース化し、テンプレートから選択するだけで見積書が作成できる環境を整備。

結果: 見積もり作成が1件あたり30〜45分に短縮(75%削減)。受注前に複数の見積もり案を提示できるようになり、受注率が向上した。

DXを社内に浸透させるための「現場の反発」への対処法

建設業のDX推進でよく直面するのが現場からの反発です。特に勤続年数の長い職人や現場監督から「今のやり方で十分」「アプリなんて面倒」という声が上がることがあります。

この反発は、変化への不安から来ています。以下の3つのアプローチで乗り越えてください。

1つ目は「メリットを本人目線で伝えること」です。 「会社の経費削減になる」ではなく「あなたの残業が減る」「移動せずに報告できる」という個人のメリットを伝えると受容されやすくなります。

2つ目は「最初から全員に強制しないこと」です。 ITに強い若手社員から始め、「使えた・楽だった」という口コミを現場内で広げます。上司命令より同僚の体験談の方が浸透しやすいです。

3つ目は「経営者が率先して使うこと」です。 「自分は使わないが社員には使わせる」という姿勢は現場に見透かされます。経営者が真っ先にアプリで日報を出し、請求書をデジタル処理する姿を見せることが最も効果的です。

DXの第二ステップ — 工程管理・原価管理まで視野を広げる

最初のDX(勤怠管理や現場写真管理)が定着したら、次は工程管理や原価管理のデジタル化を検討します。この段階で真価を発揮するのが、複数の業務を連携できる施工管理プラットフォームです。

工程管理をデジタル化すると、工期の遅延をリアルタイムで把握でき、協力会社への連絡が自動化されます。一方で原価管理をデジタル化すると、工事別の収支が見える化され「どの案件が儲かっているか」がわかるようになります。

この段階まで来ると、経営者が「感覚」ではなく「データ」で意思決定できるようになります。これが本来の意味でのDX——デジタルを使って経営の仕組みそのものを変えること——です。

原価管理や工程管理ソフトを選ぶ際は、経営事項審査(経審)との連携が取れるかどうかも重要な選定基準になります。経審のY点(財務数値)は会計データの正確さに直結するため、クラウド会計ソフトと連携して自動的に帳票出力できる環境を整えると公共工事入札にも有利に働きます。

参考情報

よくある質問

建設業のDXは何から始めるべきですか?
まず自社の「最もムダな時間」を洗い出し、最もインパクトが大きい1つの課題を選びます。中小建設会社では勤怠管理か現場写真管理から始めるのがおすすめです。
建設業のDXにかかる費用はどれくらいですか?
20名規模の会社で月額3〜6万円が目安です。デジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)を活用すれば導入コストを大幅に抑えられます。
DXツールを導入しても現場が使ってくれません。どうすればよいですか?
経営者が最初のユーザーになることが最も重要です。また、いきなり全現場に導入せず、1つの現場で2〜3週間パイロット運用してから全社展開しましょう。
デジタル化とDXの違いは何ですか?
デジタル化は紙をデジタルに置き換えること、DXはデジタルを使って業務の仕組みそのものを変えることです。中小建設会社はまずデジタル化から始めて、段階的にDXに進むのが現実的です。
50代・60代の職人でもDXツールを使えますか?
スマホだけで操作できるツールを選べば十分使えます。ただし一度に複数のツールを導入すると負荷が大きいため、最初の3ヶ月は1つのツールだけに集中しましょう。
DXの効果をどう測定すればよいですか?
導入前にBefore数値(業務時間、残業時間、ペーパーレス化率など)を記録し、導入後3ヶ月で比較します。Before/Afterの数字があれば経営会議でも効果を明確に示せます。

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