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2029年、公共建築のBIM全面活用 ── 中小建設会社が今から備えるべきこと
国土交通省の「建築BIM推進会議」は、2029年度までに公共建築でBIMを全面活用する方針を掲げています。大手ゼネコンでは90%以上がすでにBIMを導入している一方、従業員50名以下の中小建設会社では10〜20%にとどまるのが現状です。この差を放置すれば、受注機会の喪失に直結します。
BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)とは、建築物の3次元デジタルモデルに、材質・コスト・工程・設備仕様などの属性情報を紐づけて一元管理する手法です。設計から施工、維持管理(FM)までの各段階で、建築主・設計者・施工会社・設備業者などの関係者が同一のモデルを共有しながらプロジェクトを進めることができます。
単純な3次元CADとの違いは、「情報が付いている」点です。BIMの壁オブジェクトには、単に形状・寸法があるだけでなく、使用する材料の種類・耐火等級・コスト・施工会社名・メンテナンス周期などが一体で格納されています。この情報の一元化が、建設プロジェクト全体の効率化と品質向上につながります。
手戻り工事が工事費の3〜5% ── BIMで削減できるコスト
従来の建築設計では、2次元の図面をベースに関係者間で情報をやり取りしていました。しかし紙図面や2D-CADでは、意匠・構造・設備の各図面が別々に管理されるため、部材の干渉(ぶつかり)や設計変更の連携漏れが頻繁に発生します。国土交通省の調査によると、建設工事における手戻り・やり直し工事の費用は工事費全体の平均3〜5%に相当するとされており、これがBIM普及を後押しする背景の一つです。
BIMを導入すると以下のメリットが得られます。
設計段階での干渉チェックが自動化されるため、施工段階に入ってから「配管と梁が交差していた」という手戻りを大幅に減らせます。また、BIMモデルから数量を自動算出できるため、積算業務の工数削減と精度向上が同時に実現します。さらに竣工後も設備の配置・仕様が一元化されているため、修繕計画の策定や設備更新の判断がしやすくなります。
BIMとCIMの違い
BIMと混同されやすい用語に「CIM(コンストラクション・インフォメーション・モデリング)」があります。
| BIM | CIM | |
|---|---|---|
| 主な対象 | 建築物(建物) | 土木構造物(道路・橋梁・ダムなど) |
| 推進主体 | 建築系(国交省 建築局) | 土木系(国交省 土木局) |
| 3次元モデル | 建築要素(壁・柱・梁・設備など) | 地形・土木構造物の形状 |
| 日本での状況 | 2023年度から公共建築に原則適用 | 2023年度から一定規模以上の公共土木に原則適用 |
建設会社の業務内容によって、BIMとCIMの両方に関わるケースも増えています。建築工事がメインの建設会社はBIM、土木工事がメインの建設会社はCIM(またはi-Construction全体)への対応が求められます。
BIMの普及状況(2025〜2026年)
2023年度: 国交省発注の一定規模以上の建築工事でBIM原則適用開始
2026年度: より多くの公共建築工事へ適用範囲を拡大(予定)
2029年度: 公共建築のBIM全面活用を目標(国交省「建築BIM推進会議」方針)
民間の建設会社でのBIM活用率は、建設業の規模によって大きく異なります。大手ゼネコン・準大手では90%以上がBIMを活用している一方、従業員50名以下の中小建設会社では10〜20%程度にとどまるとされています(建設業協会調査、2024年)。
元請けや発注者がBIMを前提とするプロジェクトを増やしている現状では、「BIMに対応できない」ことが受注機会の損失につながるリスクが高まっています。特に官公庁や大手デベロッパーからの受注を目指す建設会社では、BIM対応力が差別化要因になっています。
BIMソフトウェアの種類と特徴
BIMを活用するには、専用のソフトウェアが必要です。主要なBIMソフトウェアと特徴を整理します。
| ソフトウェア | 開発元 | 特徴 | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| Autodesk Revit | オートデスク | 建築・構造・設備の統合BIM。シェア最多 | 設計〜施工全般 |
| Archicad | Graphisoft | 建築設計に特化。UIがわかりやすい | 建築設計 |
| Vectorworks Architect | ネミチェック | 小〜中規模設計事務所に多い | 建築設計 |
| Navisworks | オートデスク | BIMモデルの統合・干渉チェック専門ツール | 施工調整 |
| BIM360(Autodesk Docs) | オートデスク | クラウド上でのBIMデータ共有・管理 | チーム共有 |
価格の目安は、AutodeskのRevitで年間約30〜40万円(ライセンス費用)です。小規模建設会社がBIM導入を始める場合、まず無料のBIMビューワー(BIM360 Docsの閲覧機能など)でモデルの閲覧・確認から着手し、段階的にモデリングソフトへ移行するアプローチが現実的です。
中小建設会社のBIM導入コスト目安
BIM導入には初期費用とランニングコストが発生します。規模別のコスト感を把握しておくことが投資判断の出発点になります。
ソフトウェアライセンス費用
Revitの場合、1ライセンス年間30〜40万円が相場です。設計チーム3名で使う場合は年間90〜120万円になります。Archicadは少数チームへの優遇ライセンスがあり、小規模事務所向けには年間15〜20万円程度のプランもあります。
ハードウェア費用
3次元BIMモデルの処理には高性能なPCが必要です。Revit推奨スペックのPCは1台あたり20〜30万円程度。設計担当者の人数分を準備する必要があります。
教育・導入コスト
BIMソフトの習得には、集中講習(3〜5日)で基礎を学び、実務で慣れるまでに3〜6か月程度かかるのが一般的です。外部研修費用は1名あたり10〜30万円。自社内での教育体制を構築する場合は、社内トレーナーの育成時間も考慮する必要があります。
補助金の活用
BIM関連ソフトウェアの導入にはデジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)が活用できるケースがあります。詳しくはIT導入補助金ガイドを参照してください。また、ものづくり補助金も設備投資との組み合わせで検討できます。
中小建設会社のBIM導入 段階的アプローチ
大手ゼネコンのように設計段階から全面BIMに移行するのは、中小建設会社には現実的ではありません。段階を踏んだアプローチを選ぶことで、リスクを抑えながらBIM活用を始められます。
ステップ1: BIMビューワーで閲覧・確認から始める(費用: 無料〜低コスト)
元請けから共有されたBIMモデルを閲覧・確認するだけなら、無料のBIMビューワーで対応できます。Navisworks FreedomやBIM360(閲覧のみ)がこれに当たります。まずはBIMデータの見方・使い方に慣れることが目的です。
ステップ2: 施工計画・干渉チェックへの活用(費用: 中程度)
元請けのBIMモデルを借りて、自社の施工計画(仮設計画・搬入ルート等)をモデル上で確認するフェーズです。干渉チェックに特化したNavisworksを活用します。
ステップ3: 自社でのBIMモデル作成(費用: 高)
RevitやArchicadで自社設計の建物をBIM化するフェーズです。積算の自動化・意匠変更の連動反映・発注者へのプレゼン精度向上など、BIMのフルメリットが得られます。この段階に移行するのは、BIM義務化の要件が自社に直接関わる、または受注力強化の観点で必要と判断したタイミングで構いません。
BIM人材の育成と社内体制
BIMソフトを導入しても、使いこなせる人材がいなければ意味がありません。中小建設会社でのBIM人材育成における現実的なアプローチを整理します。
まず、社内のBIM推進担当(担当者1〜2名)を決めることが第一歩です。若手の設計担当者や現場監督の中から、デジタルツールへの習熟度が高い人材を選びます。外部の集中研修(AutodeskやArchicadのトレーニングプログラム)で基礎を身につけさせ、社内勉強会を通じて知識を横展開します。
建設業界ではBIM技術者の不足が続いており、BIM活用ができる技術者は採用市場でも高い評価を得ています。社内でBIM人材を育成することは、技術者の採用・定着にもプラスに働くという側面もあります。
よくある質問
- BIMとCADは何が違うのですか?
- CADが線や図形で図面を描くツールであるのに対し、BIMは建築要素をオブジェクトとして扱い、寸法だけでなく材質・コスト・設備仕様などの属性情報を一体で管理できる点が大きな違いです。BIMでは一つのモデルから平面図・断面図・数量表などを自動生成でき、変更があれば関連するすべての図面に自動反映されます。
- BIMの導入に補助金は使えますか?
- デジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)やものづくり補助金など、BIM関連ソフトウェアやハードウェアの導入に活用できる補助金制度があります。年度ごとに対象要件が異なるため、最新の公募要領を確認してください。詳しくはIT導入補助金ガイドを参照してください。
- BIMを使うにはどんなソフトが必要ですか?
- 代表的なBIMソフトウェアとして、Autodesk Revit(シェア最多・年間30〜40万円)、Archicad(建築設計特化・中小向けプランあり)、Vectorworksなどがあります。まずは無料のBIMビューワーでモデルの閲覧に慣れてから、本格的なモデリングソフトに移行する段階的アプローチが中小建設会社には現実的です。詳しくはBIMソフト比較をご覧ください。
- BIMとCIMの違いは何ですか?
- BIMは建築物(ビル・住宅など)を対象としたモデリング手法で、CIMは道路・橋梁・ダムなど土木構造物を対象とした手法です。国土交通省はBIM(建築局管轄)とCIM(土木局管轄)の両方を2023〜2026年にかけて段階的に義務化・普及を進めています。
- 中小建設会社がBIMを導入するとどのくらいのコストがかかりますか?
- Revitの場合1ライセンス年間30〜40万円、対応PCが1台20〜30万円、研修費用が1名10〜30万円程度が目安です。初年度は合計100〜200万円程度の投資が必要なケースが多く、補助金の活用で負担を軽減できます。まずは無料のBIMビューワーでの閲覧から始め、段階的にモデリングソフトへ移行するアプローチで初期費用を抑えることも可能です。
あわせて読みたい
- BIMソフト比較 — Revit・Archicad・Vectorworksなどの特徴と料金比較
- BIM導入事例 — 中小建設会社の実践 — 実際の導入プロセスとコスト削減効果
- 建設業のIT導入補助金活用ガイド — BIMソフト導入に使える補助金の申請方法
BIM義務化に関連する法制度と国の方針
BIMの普及は国の政策と密接に関連しています。導入を検討するうえで知っておくべき制度の全体像を整理します。
国土交通省は「建築BIM推進会議」を設置し、公共建築へのBIM適用ロードマップを策定しています。2023年度から一定規模以上の国交省発注建築工事でBIM原則適用が始まり、2026年度に適用範囲を拡大、2029年度に全面活用を目標としています。この方針は段階的に地方自治体の工事にも波及する見通しです。
改正建設業法(2025年施行)では、ICT活用による施工管理の合理化が推奨されています。BIMを活用した施工管理は、この方向性と合致する取り組みとして位置づけられます。
BIM関連の投資には複数の補助金制度が活用できます。IT導入補助金(デジタル化基盤導入枠)ではBIMソフトウェアのサブスクリプション費用が対象になるケースがあり、ものづくり補助金ではBIM対応のハードウェア(高性能PC等)の導入が補助対象になる場合があります。補助金の詳細は年度ごとに変わるため、最新の公募要領を確認する必要があります。
建築士法との関係では、BIMモデルが法的な「図面」として認められるかどうかの議論が続いています。現時点ではBIMモデルから出力した2次元図面が建築確認申請に使用されていますが、将来的にはBIMモデルそのものを確認申請に活用する「BIM確認申請」の実証実験が進んでいます。
BIMと3次元CADの混同に注意
「3DのCADを使っているからBIMに対応している」という認識は誤りです。3次元CADは形状を3次元で描くツールであり、BIMは形状に加えて材料・コスト・施工手順・メンテナンス情報などの属性データを一体で管理する仕組みです。3D-CADからBIMへの移行には、ソフトウェアの変更だけでなく、データの作り方・管理方法の転換が必要になります。
IFC(Industry Foundation Classes)形式でのデータ受け渡し時にも注意が必要です。ソフトウェアごとにIFCへの対応状況が異なり、データ変換時に属性情報が一部失われるケースがあります。発注者への納品前に、指定形式での出力品質を検証する手順を組み込んでおくことが実務上のリスク低減策になります。
参考情報
- 国土交通省「建築BIM推進会議」 — BIM義務化ロードマップ・推進状況
- 国土交通省「i-Construction推進コンソーシアム」 — CIM・ICT施工の動向
- 建築保全センター「BIM活用ガイドライン」 — 建築保全センター(維持管理段階でのBIM活用)