この記事の監修 山本 貴大 / ケンテク編集長

150社以上のマーケティング/コンサルティング支援実績。認定支援機関と連携した補助金計画書の作成支援も手がける。

「標準労務費」という言葉を耳にしたことはあるが、建設業の実務で何がどう変わるのか具体的に把握できていない。そんな中小建設会社の経営者・積算担当者は多いのではないでしょうか。

標準労務費とは、2024年の改正建設業法で新たに導入された制度で、建設工事の労務費に「著しく低い水準」の下限を設ける仕組みです。2025年12月2日に中央建設業審議会が基準を勧告し、同年12月12日の法完全施行とともに運用が始まっています。

この記事では、標準労務費の算出方法から主要12職種の基準額、設計労務単価との違い、そして自社の労務費を点検するセルフチェック手順までを解説します。

標準労務費とは — 改正建設業法が定めた「賃金の下支え」基準

標準労務費の定義と目的

標準労務費は、建設業法第34条第2項に基づき、中央建設業審議会が作成・勧告する「労務費に関する基準」です。正式には「労務費の基準」と呼ばれ、建設工事の請負契約において「著しく低い労務費」の判断基準として機能します。

目的は明快で、建設技能労働者の賃金水準を適正に確保することにあります。

これまでの建設業界では、受注競争が激化するなかで労務費が切り下げられ、現場で働く技能者の賃金が抑えられるという構造的な問題がありました。元請けから下請けへ、下請けからさらに孫請けへと仕事が流れるたびに労務費が削られ、最終的に技能者の手取りが「生活できるギリギリ」まで落ちてしまうケースも珍しくありません。

標準労務費の導入によって、この連鎖に歯止めがかかります。元請け・下請けの双方が「この水準を下回ってはならない」という明確なラインを持つことで、健全な競争環境への転換を促す制度です。

設計労務単価との違い

標準労務費と混同されやすいのが「公共工事設計労務単価」です。名前は似ていますが、目的・適用範囲・使い方が異なります。

項目標準労務費(労務費の基準)公共工事設計労務単価
根拠法建設業法第34条第2項予算決算及び会計令
策定主体中央建設業審議会国土交通省
対象範囲公共工事・民間工事の両方公共工事のみ
用途見積り・契約の適正性判断基準公共工事の予定価格算出
表示単位単位施工量あたりの労務費職種別の日額
拘束力基準を著しく下回ると勧告・公表の対象予定価格の積算基準(直接的な罰則なし)

中小建設会社が実務で理解すべきポイントは、「設計労務単価は公共工事の積算のための数字」であり、「標準労務費は民間工事を含むすべての契約で守るべきライン」だという点です。

標準労務費の法的位置づけ

標準労務費に違反した場合の効力を整理しておきます。

標準労務費そのものに法的拘束力はありませんが、これを「著しく下回る」見積り依頼・見積り提出・契約締結を行った場合、建設業法の規定に基づき国土交通大臣等からの勧告・公表の対象になります。つまり、標準労務費は「守らなければ罰則がある数値」ではなく、「著しく下回ったかどうかを判断するための物差し」です。

この「著しく」がどの程度を指すかは今後の運用で明確化されていく部分ですが、少なくとも基準額を大幅に下回る見積りや契約は避けるべきことは間違いありません。

なお、勧告に従わない場合に事業者名が公表される仕組みは、独占禁止法における「優越的地位の濫用」に対する公正取引委員会の公表措置と類似しています。業界内での信用を維持するためにも、標準労務費を意識した契約・見積りが不可欠です。

標準労務費の算出方法と主要職種の基準額

「設計労務単価 × 歩掛かり」で算出される

標準労務費の算出は、以下の計算式が基本です。

標準労務費 = 都道府県別の公共工事設計労務単価 × 歩掛かり(国土交通省の直轄工事で使用される標準歩掛かり)

「歩掛かり(ぶがかり)」とは、ある工事を1単位(1トン、1平方メートルなど)施工するために必要な人工数(にんくすう)のこと。例えば「鉄筋1トンの加工・組立に○人工必要」といった形で設定されています。

具体例で見てみましょう。ある地域の鉄筋工の設計労務単価が30,000円/日で、鉄筋1トンの加工・組立の歩掛かりが3人工だった場合、標準労務費は以下のようになります。

30,000円 × 3人工 = 90,000円/トン

この金額が「鉄筋工事1トンあたりの標準労務費」となり、見積書に計上する労務費がこの水準を著しく下回っていないかを判断する基準になります。

設計労務単価の推移 — 14年連続上昇

標準労務費の基礎となる公共工事設計労務単価は、近年一貫して上昇しています。

年度全国全職種加重平均(日額)前年比
令和5年3月〜(2023年度)22,227円+5.2%
令和6年3月〜(2024年度)23,451円+5.9%
令和7年3月〜(2025年度)24,852円+6.0%
令和8年3月〜(2026年度)25,834円+4.5%

令和8年度は14年連続の上昇で、初めて全国加重平均が25,000円を超えました。4年間で約16%上昇している計算です。

標準労務費もこの水準に連動して更新されるため、「去年のデータで見積もっていたら基準を下回っていた」という事態が起こりえます。毎年3月の改定時期に最新の単価をチェックする習慣をつけてください。自社の見積りテンプレートに記載している労務単価が最新版であるかどうか、年度初めに必ず確認することを推奨します。

出典: 令和8年3月から適用する公共工事設計労務単価について — 国土交通省

主要12職種の基準額

中央建設業審議会が勧告した標準労務費は、工種ごとに「単位施工量あたりの労務費」として示されます。参考として、主要職種の設計労務単価(令和7年3月適用の全国平均)を掲載します。

職種設計労務単価(日額・全国平均)
型枠工30,214円
鉄筋工30,071円
左官29,351円
大工29,019円
とび工28,000円前後
普通作業員22,000円前後

これらの日額に歩掛かりを乗じた金額が、各工種の標準労務費の基礎になります。ただし、標準労務費は「日額 × 人工数」の単純計算だけでなく、地域特性や施工条件による調整も加味されるため、最終的な基準額は国土交通省が公表する工種別の数値を確認する必要があります。

出典: 令和7年3月から適用する公共工事設計労務単価について — 国土交通省

地域・工種による調整の考え方

設計労務単価は都道府県別に設定されており、地域によって金額が大きく異なります。東京と地方では同じ職種でも単価に差があるため、自社が工事を行う地域の単価を基準にする必要があります。

また、標準労務費は「正確さ」よりも「使いやすさ」を重視して設計されています。1トンや1平方メートルといった単位施工量あたりの金額で設定されるため、従来の「人工単位」の見積りから切り替える際にやや慣れが必要かもしれません。

中小建設会社の場合、全国一律の単価ではなく、必ず自社が施工する都道府県の設計労務単価を基準にしてください。例えば東京と地方では同じ鉄筋工でも日額が数千円単位で異なります。全国平均を使って計算すると、地方の事業者は過大な基準を、都市部の事業者は過小な基準を適用してしまうおそれがあります。

標準労務費の公表スケジュール

標準労務費は、工種ごとに関係団体との調整が整った分野から順次、国土交通省が具体的な基準額を決定・公表します。2025年12月の制度開始時点で全工種をカバーしているわけではなく、鉄筋・型枠など主要工種から段階的に拡大される方針です。

標準労務費を下回るとどうなる? 禁止行為と罰則

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禁止される行為の整理

2025年12月12日の改正建設業法完全施行により、標準労務費に関連して以下の行為が禁止されています。

禁止行為対象者具体例
著しく低い労務費を前提とした見積り依頼注文者(発注者・元請け)「前回と同じ金額で」と標準労務費を無視した金額を要求する
著しく低い労務費を前提とした見積り提出受注者(下請け)受注競争のために自ら労務費をダンピングして見積りを出す
原価割れ契約の締結受注者正当な理由なく、必要な原価を下回る金額で請負契約を結ぶ

注目すべきは、受注者側(下請け側)の行為も規制対象になっている点です。従来は「元請けが安くたたく」ことだけが問題視されていましたが、改正後は「下請けが自ら安値で受ける」行為も禁止対象。業界全体の賃金底上げを目指した双方向の規制として設計されています。

勧告・公表の対象基準

国土交通大臣等による勧告・公表の対象となるのは、施工に通常必要と認められる費用が500万円以上(建築一式工事は1,500万円以上)の請負契約です。

勧告に従わない場合は事業者名が公表されます。直接的に建設業許可が取り消されるわけではありませんが、経営事項審査(経審)のスコアや入札参加資格に影響が出る可能性があります。民間工事がメインの事業者であっても、元請けのコンプライアンスチェックで不利になるリスクがあるため、金額基準に関わらず対応しておくべきです。

標準労務費が中小建設会社に与える影響

元請けとしての影響

中小建設会社が元請けの立場で下請けに発注する場合、以下の対応が求められます。

下請けに提示する見積り条件が標準労務費を著しく下回っていないかの確認が不可欠です。「材工一式○○万円」という従来型の丸投げ的な見積り依頼は、労務費の内訳が不透明になるためリスクが高い。見積り依頼の段階で労務費・材料費・経費を分離した「材工分離」の形式に移行する必要があります。

具体的な対応としては、以下の3点がポイントになります。

  • 見積り依頼書に「労務費は標準労務費の基準を考慮して算出すること」と明記する
  • 下請けから受領した見積書の労務費内訳を、標準労務費の基準額と照合する
  • 著しく低い見積りが提出された場合は、受け入れずに再提出を依頼する

下請けから提出された見積りが不自然に安い場合、それをそのまま受け入れてしまうと、注文者としての責任を問われかねません。「安いから助かる」ではなく、「この労務費で標準を満たしているか」という視点でのチェックが求められる時代に変わりました。

下請けとしての影響

下請けの立場では、むしろ追い風となる面があります。

標準労務費の存在によって、元請けとの交渉で「この金額では標準労務費を確保できません」と客観的な根拠をもって主張できるようになりました。従来は「他の業者はこの金額でやってくれる」と言われると反論が難しかったところ、法律に裏付けられた基準を示せるのは大きな変化です。

一方で、自社の見積りが標準労務費を著しく下回っている場合は、受注者側としても違反になる点に注意が必要です。「安くしてでも仕事を取る」という営業スタイルは法的リスクを伴います。営業担当者が現場の判断で値下げしないよう、社内の見積り承認フローに「標準労務費との照合」ステップを組み込んでおくことを推奨します。

標準労務費の導入は、下請け事業者にとって「正当な対価を請求する根拠」が法的に整備されたという意味で、業界構造を変える転機です。この制度を味方につけて、自社の利益率と技能者の待遇改善を同時に実現する姿勢が求められます。

一人親方・フリーランスへの波及

建設業許可を持たない一人親方やフリーランスの技能者は、改正建設業法の直接的な規制対象外です。しかし、元請け・下請けが標準労務費を遵守する以上、そこから発注される労務費の水準も底上げされることが期待されます。

CCUS(建設キャリアアップシステム)の能力評価と連動した賃金設定も進んでおり、技能者のレベルに応じた適正な報酬が実現しやすい環境が整いつつあります。CCUSに未登録の技能者は、CCUSの仕組みと登録方法を確認のうえ、早めに登録しておくことをお勧めします。

自社の労務費を点検するセルフチェック3ステップ

標準労務費への対応は、大規模なシステム投資や専門コンサルタントの起用を必ずしも必要としません。以下の3ステップで自社の現状を把握し、必要な調整を行えます。

ステップ1: 見積書の労務費内訳を確認する

自社が作成している見積書を3〜5件取り出し、労務費が独立した項目として記載されているかを確認してください。

「材工一式」や「工事費一式」として労務費と材料費をまとめて記載している場合は、改正法の趣旨に沿った形式に変更する必要があります。見積書のテンプレートに以下の項目を明記できる欄を設けましょう。

  • 労務費(職種別・人工数と単価の内訳)
  • 材料費
  • 機械経費
  • 法定福利費
  • 安全衛生経費

勤怠管理ツールを導入すれば、実際の工数データを見積りに反映しやすくなります。

ステップ2: 標準労務費との乖離を数値で把握する

国土交通省が公表する標準労務費の基準額と、自社が見積りに計上している労務費を工種ごとに比較します。

具体的な手順は次のとおりです。

  1. 自社の主要工種(直近1年間の受注実績で上位3〜5工種)を特定する
  2. 各工種について、自社の見積り単価(単位施工量あたりの労務費)を算出する
  3. 国土交通省が公表する標準労務費の該当工種の基準額と比較する
  4. 乖離率(自社単価 ÷ 標準労務費 × 100)を計算する

乖離率が80%を下回っているような工種があれば、「著しく低い」と判断されるリスクがあります。特に受注競争が激しい工種では、知らず知らずのうちに基準を下回っている可能性があるため、数値で可視化しておくことが大切です。

この点検は半年に1回程度の頻度で実施するとよいでしょう。設計労務単価が毎年3月に改定されるため、4月のタイミングで最新データを使って再チェックする運用がスムーズです。Excel等の表計算ソフトで工種別の比較表を作成しておけば、毎回の更新作業を効率化できます。原価管理ソフトを導入済みであれば、単価マスタの更新だけで対応できるケースもあります。

ステップ3: CCUSレベルと賃金テーブルを連動させる

標準労務費は、建設キャリアアップシステム(CCUS)の能力評価レベルと連動した賃金設定を後押しする制度でもあります。

CCUSでは技能者を4段階(レベル1〜4)で評価し、レベルに応じた処遇を行うことが推奨されています。自社の賃金テーブルがCCUSレベルと連動していない場合は、この機会に整備しておくとよいでしょう。

  • レベル1(初級技能者): 基本的な作業ができる
  • レベル2(中堅技能者): 一人で作業を完遂できる
  • レベル3(職長クラス): 後輩を指導しながら現場を管理できる
  • レベル4(登録基幹技能者): 高度な判断を伴う施工管理ができる

レベルに応じた賃金差を設けることで、技能者のキャリアアップ意欲を高め、定着率の向上にもつながります。働き方改革の取り組みとも整合する施策です。

実際にCCUSレベルと賃金テーブルを連動させている企業では、「レベルが上がると手取りが増える」という明確なキャリアパスを示せるため、若手技能者の採用面接での訴求材料にもなっています。人手不足が深刻な建設業界で、「うちはCCUSレベルに応じた賃金制度を導入済みです」と言えることは、採用競争力の観点からも大きなアドバンテージです。

ICTで労務費管理を効率化する

見積りの労務費内訳を毎回手作業で算出するのは負担が大きい。施工管理アプリや原価管理ツールを導入すれば、実績データに基づく労務費の自動計算が可能です。ICTツールの導入費用はデジタル化・AI導入補助金の対象になり得るため、コスト面のハードルも下がっています。

よくある質問

標準労務費とは何ですか?
標準労務費とは、建設業法第34条第2項に基づき中央建設業審議会が作成・勧告する「労務費に関する基準」です。建設工事の請負契約で「著しく低い労務費」かどうかを判断するための基準として機能します。公共工事だけでなく、民間工事を含むすべての建設工事が対象です。
標準労務費と公共工事設計労務単価の違いは何ですか?
公共工事設計労務単価は公共工事の予定価格を算出するための積算基準(日額)です。一方、標準労務費は公共・民間すべての建設工事で見積り・契約の適正性を判断する基準で、単位施工量あたりの金額で示されます。標準労務費の算出には設計労務単価が基礎データとして使われますが、用途と適用範囲が異なります。
標準労務費を下回る見積りを出すとどうなりますか?
標準労務費を著しく下回る見積りの提出・依頼は、改正建設業法で禁止されています。違反した場合、国土交通大臣等から勧告が行われ、従わない場合は事業者名が公表されます。対象は施工費用500万円以上(建築一式工事は1,500万円以上)の請負契約です。
標準労務費の具体的な金額はどこで確認できますか?
国土交通省の建設産業・不動産業のページで公表されます。工種ごとに関係団体との調整が整った分野から順次、単位施工量あたりの労務費として公表される方針です。設計労務単価は毎年3月に更新されるため、標準労務費もそれに連動して変動します。
一人親方やフリーランスも標準労務費の対象ですか?
建設業許可を持たない一人親方・フリーランスは、改正建設業法の直接的な規制対象外です。ただし、元請け・下請けが標準労務費を遵守することで、そこから発注される労務費の水準も底上げされることが期待されます。CCUSに登録しておくと能力評価と連動した適正な報酬を得やすくなります。

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