この記事の監修 山本 貴大 / ケンテク編集長

150社以上のマーケティング/コンサルティング支援実績。認定支援機関と連携した補助金計画書の作成支援も手がける。

インボイス制度が建設業に与える影響

2023年10月から始まったインボイス制度(適格請求書等保存方式)。建設業は他業種と比べて影響が大きい業界です。

国土交通省の試算によると、建設業の就業者約482万人(2024年時点)のうち、一人親方は約50〜60万人と推定されています。このうち年間売上1,000万円以下の免税事業者が相当数を占めており、インボイス制度の影響は建設業全体に及びます。

建設業への影響が大きい理由は、

  • 下請け構造が深く、取引先(下請け・一人親方)の数が多い
  • 一人親方の多くが免税事業者(年間売上1,000万円以下)
  • 免税事業者からの仕入れは仕入税額控除ができなくなる
  • 結果、元請けの税負担が増加する
放置すると何が起きるか

免税事業者の一人親方に外注した工事代金について、仕入税額控除ができなくなります。つまり、消費税分が「丸ごとコスト増」になります。年間外注費が1,000万円なら、最大100万円の負担増。

インボイス制度の基本的な仕組み

インボイス制度では、仕入税額控除を受けるために「適格請求書(インボイス)」の保存が必要になりました。適格請求書を発行できるのは「適格請求書発行事業者」として登録した課税事業者のみです。

登録番号はT+13桁の法人番号(個人事業主はT+13桁の数字)で構成されます。国税庁の「適格請求書発行事業者公表サイト」で、取引先の登録状況を無料で確認できます。

適格請求書には、従来の請求書の記載事項に加えて、登録番号、適用税率、税率ごとの消費税額の記載が求められます。これに対応した請求書フォーマットへの変更がまだ済んでいない場合は、早急に対応が必要です。

建設業で対応すべき3つのパターン

パターン1: 自社が課税事業者の場合(元請け・中堅以上)

やるべきことは4つです。

  1. 全ての取引先が適格請求書発行事業者かどうかを確認する
  2. 免税事業者との取引について対応方針を決める
  3. 自社の請求書を適格請求書のフォーマットに更新する
  4. 会計ソフトをインボイス対応にする

免税事業者との取引には複数の選択肢があります。

選択肢メリットデメリット
免税事業者にインボイス登録を依頼仕入税額控除が可能一人親方の税負担が増加。関係悪化リスク
経過措置を活用して取引継続当面80%→50%の控除が可能段階的に控除額が減少
取引価格を見直すコスト増を吸収利益が減少
免税事業者との取引を縮小税務上のシンプル化協力業者の確保が困難に

実務上は、経過措置を活用しつつ、一人親方にはインボイス登録を丁寧に説明・依頼する方法が最も多く選ばれています。一方的に「登録しないなら取引を打ち切る」という対応は、下請法や独占禁止法上の問題が生じる可能性がある点に注意が必要です。公正取引委員会は2023年9月に「インボイス制度の実施に関連した注意事例」を公表し、一方的な取引条件の不利益変更について警告を発しています。

パターン2: 自社が一人親方・免税事業者の場合

以下の選択肢があります。

選択肢内容判断基準
インボイス登録する(課税事業者になる)消費税の申告・納付が必要に元請けとの取引維持を最優先する場合
簡易課税を選択するみなし仕入率で計算。建設業は70%実際の仕入率が70%以下なら有利
2割特例(2026年9月末で終了予定。2026年10月以降は3割特例に移行)売上税額の2割を納付2026年9月まで。最もシンプル
免税事業者のまま消費税の申告不要元請けが経過措置で対応してくれる場合
一人親方には「2割特例」がおすすめ

2026年9月末までの経過措置として、インボイス登録した免税事業者は売上税額の2割だけ納付すればOK。例えば年間売上800万円の一人親方なら、消費税の納付額は約14.5万円。これが最もシンプルで負担が軽い。なお、2026年10月以降は3割特例に移行予定です。

一人親方の具体的な判断フロー

一人親方が「インボイス登録すべきかどうか」の判断は、取引先の構成によって変わります。

元請けが大手ゼネコンや中堅建設会社の場合、インボイス登録を求められるケースがほとんどです。取引を継続するためには登録が現実的な選択になります。

一方、個人のお客様(一般消費者)からの直接受注が中心の場合は、事情が異なります。一般消費者は仕入税額控除を行わないため、インボイスの有無が取引に影響しません。この場合は免税事業者のままでいることも合理的な選択肢です。

取引先が混在している場合は、元請けとの取引金額の大きさで判断するのが実務的です。元請け経由の売上が年間売上の半分以上を占めるなら、インボイス登録を優先的に検討してください。

パターン3: 下請けに一人親方が多い場合

段階的な対応が現実的です。

時期対応
2023年10月〜2026年9月経過措置で免税事業者からの仕入れの80%を控除可能
2026年10月〜2029年9月控除率が50%に低下
2029年10月〜控除不可(全額コスト負担)

今すぐやるべきことは、

  1. 下請け・一人親方の適格請求書発行事業者登録状況を一覧で管理する
  2. 未登録の一人親方にインボイス制度の説明を行う
  3. 2026年10月以降の対応方針を決めておく

コスト増のシミュレーション

下請けに一人親方が多い元請け会社は、経過措置の終了に伴うコスト増を事前に試算しておくことが重要です。

年間外注費(免税事業者向け)経過措置80%控除(〜2026年9月)経過措置50%控除(〜2029年9月)経過措置終了後
500万円約9万円の負担増約22.7万円の負担増約45.5万円の負担増
1,000万円約18万円の負担増約45.5万円の負担増約91万円の負担増
3,000万円約54万円の負担増約136万円の負担増約273万円の負担増

この試算を見ると、免税事業者からの外注が多い建設会社ほど、早めにインボイス登録を促すか、経過措置終了後の価格転嫁について協議を始める必要があることが分かります。

簡易課税の活用 — 建設業での実務ポイント

ここまで読んだ方へ

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簡易課税制度は、基準期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者が選択できる制度です。建設業のみなし仕入率は70%(第三種事業)で、実際の仕入率が70%以下であれば簡易課税を選択したほうが有利になります。

ただし、建設業で注意が必要なのは「業種区分」です。同じ建設業でも、材料を元請けから支給される「加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供」に該当する場合は第四種事業(みなし仕入率60%)に区分される場合があります。自社の取引形態がどの区分に該当するか、税理士に確認しておくことをおすすめします。

簡易課税の届出は、適用を受けようとする課税期間の開始日の前日までに提出する必要があります。届出時期を逃すと1年間待つことになるため、検討中の方は早めに税理士に相談してください。

建設業のインボイス対応に使えるツール

会計ソフトのインボイス対応機能

ツールインボイス対応機能月額目安
freee会計適格請求書の発行・受領管理。登録番号の自動チェック2,680円〜
マネーフォワード同上。仕入税額控除の自動計算2,980円〜
弥生会計同上。経過措置の自動計算実質0円〜(初年度無料プランあり)

いずれもデジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)のインボイス枠で導入可能(※補助率は年度により変更の可能性あり)。

詳しくは「建設業のIT導入補助金活用ガイド」をご覧ください。

取引先管理の方法

インボイス制度への対応で意外と手間がかかるのが、取引先の登録状況の管理です。下請け・一人親方の数が多い建設会社では、Excelで管理表を作成しておくことをおすすめします。

管理すべき項目は、取引先名、登録番号(T+13桁)、登録日、確認日です。国税庁の公表サイトで定期的に登録状況を確認し、未登録の取引先には登録の検討を依頼する流れを作っておくと、経過措置終了時にも慌てずに済みます。

インボイス対応の実務フロー — 建設会社が今すぐ着手すべきこと

制度の概要は把握しているが「実際に何をどの順番でやればいいか」が不明瞭という声が多く聞かれます。中小建設会社の実務に合わせた手順を整理します。

ステップ1: 自社の課税・免税区分を確認する

まず自社が課税事業者か免税事業者かを確認します。基準期間(2年前の事業年度)の課税売上高が1,000万円以上であれば課税事業者、未満であれば免税事業者(ただし特定期間の売上が1,000万円超の場合は注意が必要)です。

課税事業者の場合は、インボイス発行事業者として登録済みかどうかを確認します。登録がまだの場合は、国税庁のe-Taxまたは書面で「適格請求書発行事業者の登録申請書」を提出します。

ステップ2: 取引先の登録状況を一覧管理する

全ての外注先・下請け業者について、適格請求書発行事業者かどうかを確認します。国税庁の「適格請求書発行事業者公表サイト」(invoice-kohyo.nta.go.jp)で登録番号を入力すれば即座に確認できます。

管理表はExcelで十分です。取引先名、登録番号(未登録の場合は「未登録」と記入)、確認日、年間外注金額の4項目を記録します。未登録の取引先への外注金額合計が把握できれば、経過措置終了後の影響額を計算できます。

ステップ3: 自社の請求書フォーマットを更新する

適格請求書には従来の請求書に加えて「登録番号」「適用税率」「税率ごとの消費税額」の記載が必要です。既存の請求書テンプレートを確認し、これらの項目が記載されているか確認してください。

会計ソフトを使っている場合は、ソフトのインボイス対応バージョンにアップデートすることで、適格請求書の発行が自動化されます。手書きや旧来のExcel請求書を使っている場合は、フォーマットの更新が必要です。

ステップ4: 受領した請求書の保存方法を整備する

インボイス制度では、仕入税額控除を受けるために取引先から受領した適格請求書を保存しておく義務があります。紙の請求書は7年間の保存が原則です。

電子取引(メールやクラウドで受領した請求書)については、電子帳簿保存法の要件に従った電子保存が義務付けられています。建設業では下請けからの請求書を大量に受け取るため、スキャンして保存する「スキャナ保存」や、最初から電子で受け取る仕組みの構築を検討することで、業務効率が大幅に改善します。詳しくは建設業の電子帳簿保存法対応をご覧ください。

一人親方への丁寧な説明と交渉の進め方

インボイス対応で最も難しいのが、長年取引してきた一人親方・個人事業主との関係をどう維持するかです。制度の理解が不十分なまま一方的に登録を求めると、関係悪化や取引解消につながるリスクがあります。

説明の際に伝えるべきポイントは3点です。

「この制度は私たちが選んだものではなく、国が定めたルール」であることを前提にします。双方にとってどう影響するかを具体的な金額で説明することで、感情的な受け取り方を避けられます。

「2割特例(2026年9月末まで)を使えば、売上税額の2割だけ納付すればよい」という事実を伝えます。年間売上600万円の一人親方であれば、消費税の実質的な負担は約10.9万円(600万円×10%×2割)です。インボイス登録しないまま取引を続けると元請けのコストが増えるが、登録することで双方の負担が最小化されることを共有します。

最後に「登録するかどうかはあなたが決めること」と伝えます。一方的な要求ではなく、選択肢を示した上での相談という形にすることで、関係を維持しながら対応を進められます。

建設業の下請取引とインボイス — 知っておくべき法令の留意点

インボイス登録の強制に関連して、下請法と独占禁止法上の留意点があります。

建設業の場合、主に下請法ではなく建設業法が適用されます。建設業法第19条の3は、「不当に低い請負代金の禁止」を規定しており、インボイス制度を口実として不当に下請代金を減額することは、この規定に抵触する可能性があります。

国土交通省は2023年に「建設業法令遵守ガイドライン」を更新し、インボイス対応に関連した下請代金の扱いについて具体的な指針を示しています。インボイス未登録の一人親方との取引価格を見直す場合は、双方の話し合いのもとで合理的な範囲で行うことが求められます。

出典: 国土交通省「建設業法令遵守ガイドライン(第8版)」

インボイス対応でよくある質問

工事代金と消費税の記載方法はどうすればよいか

適格請求書には、税率ごとの合計金額と消費税額を記載する必要があります。建設工事の請求書では通常10%の標準税率のみですが、現場で使用した食料品(職人への弁当代等)は8%の軽減税率が適用される場合もあります。税率が混在する場合は税率ごとに分けて記載します。

請求書に記載する登録番号は「T」から始まる13桁の番号です。法人の場合はT+法人番号(13桁)、個人事業主の場合はT+マイナンバーではなく税務署が割り当てた番号になります。

工事の前払い・出来高払いはどう処理するか

建設業では「前払い」や「出来高払い」が一般的です。インボイス制度では、請求書の発行時点ではなく「課税資産の譲渡等が行われた時期」が課税のタイミングになります。工事完成時に確定する場合は、完成時に適格請求書を発行します。前払いを受け取った段階で「仮払消費税」として処理し、工事完成時に精算する方法が実務的です。

税務上の処理は複雑になるため、会計ソフトのインボイス対応機能を活用するか、税理士に確認することをおすすめします。

領収書と適格請求書の違いは何か

領収書も「適格簡易請求書」として発行できる書類です。適格請求書(インボイス)との違いは記載事項にあります。適格簡易請求書の場合、宛名(購入者の氏名等)の記載が不要です。小売業・飲食業・タクシー業等では適格簡易請求書が認められていますが、建設業は原則として適格請求書(正式なインボイス)が必要です。

ただし、金額が3万円未満の少額取引や、自動販売機からの購入等については「少額特例」が適用され、一定の条件のもとで帳簿の保存のみで仕入税額控除が認められます(2029年9月まで)。

インボイスと電子帳簿保存法の関係

インボイス制度への対応と電子帳簿保存法(電帳法)への対応は、セットで考えることで業務効率が大幅に改善します。

電帳法では、2022年1月以降、電子取引(メールやクラウドで授受した請求書・領収書等)の電子保存が義務化されています(2023年12月末まで猶予期間)。建設業では、工事代金の請求書・見積書をメールでやり取りするケースが増えており、電子保存の仕組みを整備することが求められます。

インボイス対応の会計ソフト(freee・マネーフォワード・弥生等)は、電帳法への対応機能も搭載しています。一度に両方の対応が完了できるため、システムへの投資効率が高くなります。

出典: 国税庁「電子帳簿保存法の概要」

参考情報

よくある質問

インボイス制度は建設業にどのような影響がありますか?
下請け構造が深く一人親方が多い建設業では影響が大きいです。免税事業者からの仕入れは仕入税額控除ができなくなり、年間外注費1,000万円なら最大100万円の負担増になる可能性があります。
一人親方はインボイス登録すべきですか?
元請けとの取引維持を優先するならインボイス登録がおすすめです。2026年9月末までは2割特例が使え、売上税額の2割を納付するだけで済むためシンプルで負担も軽いです。2026年10月以降は3割特例に移行予定です。
免税事業者の一人親方との取引はどうすればよいですか?
経過措置を活用して段階的に対応するのが現実的です。2026年9月までは80%、2029年9月までは50%の控除が可能です。一人親方にインボイス制度の説明を行い、登録を依頼するのも一つの方法です。
インボイス制度対応にはどのようなツールが使えますか?
freee会計、マネーフォワード、弥生会計などの会計ソフトがインボイス対応機能を搭載しています。デジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)のインボイス枠で導入可能です(補助率は年度により変更の可能性があります)。
簡易課税とはどのような制度ですか?
みなし仕入率で消費税を計算する方法で、建設業のみなし仕入率は70%です。実際の仕入率が70%以下なら簡易課税のほうが有利になります。ただし、材料支給を受ける工事は第四種事業(みなし仕入率60%)に区分される場合があるため、税理士への確認が必要です。
インボイス制度の経過措置はいつまでですか?
2026年9月までは免税事業者からの仕入れの80%が控除可能、2029年9月までは50%が控除可能です。2029年10月以降は控除不可(全額コスト負担)となるため、早めの対応方針決定が重要です。
インボイス登録を一方的に求めると問題がありますか?
一方的に取引条件を不利益に変更することは、下請法や独占禁止法に抵触する可能性があります。公正取引委員会も注意事例を公表しており、丁寧な説明と協議のうえで対応することが重要です。

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