この記事の監修 山本 貴大 / ケンテク編集長

150社以上のマーケティング/コンサルティング支援実績。認定支援機関と連携した補助金計画書の作成支援も手がける。

電子帳簿保存法とは — 建設業に何が関係するのか

電子帳簿保存法(電帳法)は、帳簿や書類を電子データで保存するルールを定めた法律です。1998年の制定以降、複数回の改正を経て要件が緩和されてきましたが、2024年1月から電子取引データの電子保存が完全義務化されました。

国税庁が2023年12月に公表した調査によると、中小企業の電帳法対応率は約4割にとどまっています。建設業は紙文化が根強い業界であり、対応がさらに遅れている傾向があります。建設業における請求書・見積書・注文書の電子化率は全産業平均を約15ポイント下回るという民間調査もあり、今後の対応が急務といえます。

建設業の経営者が押さえるべきポイント

メールやクラウドで受け取った請求書・見積書・注文書は、紙に印刷して保存するのではなく電子データのまま保存しなければなりません。これは全ての事業者に適用されます。

建設業で特に影響が大きい書類

書類よくある受取方法電子保存の対象?
元請けからの注文書(メール添付)メール対象
下請けからの請求書(PDF)メール・クラウド対象
資材メーカーの見積書(Web)Webダウンロード対象
通販サイトの領収書Web画面対象
FAXで受け取った注文書FAX(紙)対象外(紙保存でOK)
手渡しの領収書対象外(紙保存でOK)

つまり「電子で受け取ったものは電子で保存」「紙で受け取ったものは紙で保存」が基本ルールです。

建設業特有の課題

建設業は他業種と比べて取引書類の量が非常に多い業界です。1つの工事で元請け・下請け・資材メーカー・リース会社など多数の取引先が関わるため、注文書・請求書・納品書が大量に発生します。国土交通省の統計によると、建設業の許可業者数は約47万社(2024年3月末時点)で、その99%以上が中小企業。多くの現場で「メールで受け取った見積書を紙に印刷してファイリングする」という運用が続いていたため、法改正の影響は大きいです。

また、現場事務所と本社が離れているケースが多いことも建設業ならではの課題です。現場で受け取った書類を本社に送る際のタイムラグや、複数の現場で同時並行で書類が発生する状況では、一元管理の仕組みがないと対応が困難になります。

中小建設会社が最低限やるべき3つのこと

1

電子データの保存場所を決める

メールで受け取った請求書等をどこに保存するか決める。クラウドストレージ(Google Drive、Dropbox等)にフォルダを作るだけでもOK。

2

検索できるようにファイル名を統一する

ファイル名を「日付_取引先名_金額」で統一する。例: 20260318_ABC建設_500000円.pdf。これで検索要件を満たせる。

3

改ざん防止の措置を取る

事務処理規程(テンプレートあり)を作成して社内で運用する。または、タイムスタンプ機能付きのクラウドサービスを使う。

最もシンプルな対応方法

「事務処理規程 + クラウドストレージ」の組み合わせが最もシンプル。事務処理規程は国税庁のサイトにテンプレートがあり、それをダウンロードして自社名を入れるだけ。クラウドストレージはGoogle DriveやDropboxの無料プランでOK。

追加費用ゼロで対応可能です。

ファイル名ルールの具体例

ファイル名のルールは社内で統一しておくことが肝心です。建設業では工事現場ごとに取引が分かれるため、現場名や工事番号を入れておくと後から検索しやすくなります。

書類種別ファイル名の例
請求書20260318_ABC建設_500000円_渋谷マンション新築.pdf
見積書20260315_山田資材_見積_配管工事.pdf
注文書20260320_丸山リース_注文_足場レンタル.pdf
領収書20260322_ホームセンターXX_8500円_消耗品.pdf

フォルダ構成も「年度/月/取引先名」や「年度/現場名/書類種別」のように統一ルールを決めておくと、税務調査の際にスムーズに対応できます。

電子帳簿保存法の3つの区分

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区分内容対象義務?
電子帳簿保存会計ソフトで作成した帳簿をデータで保存会計ソフト利用者任意
スキャナ保存紙の書類をスキャンして電子保存紙の書類が多い会社任意
電子取引データ保存電子で受け取った書類を電子で保存全事業者義務

中小建設会社が必ず対応しなければならないのは「電子取引データ保存」のみ。他の2つは任意です。

スキャナ保存の活用も検討する価値がある

電子取引データ保存は義務ですが、スキャナ保存は任意です。とはいえ、建設業では紙の書類が大量に発生するため、スキャナ保存を併用するメリットは大きいです。

2024年1月以降のスキャナ保存の要件は大幅に緩和されました。スマートフォンで撮影した画像でも要件を満たす場合があり、現場で受け取った領収書をスマホで撮影してクラウドに保存するという運用も可能です。従来はタイムスタンプの付与が必須でしたが、改正後は一定の要件を満たすクラウドサービスを利用していれば、タイムスタンプの付与が不要になりました。

紙の書類をスキャンして電子化することで、保管スペースの削減や検索性の向上が期待できます。事務所の書棚がファイルで埋まっている建設会社にとっては、スペース確保のメリットも無視できません。

建設業でよくある疑問

よくある質問

FAXで受け取った書類は電子保存が必要?
FAXで受け取った紙の書類は「紙の取引」扱いなので、従来通り紙で保存してOKです。ただし、複合機がデータとして受信している場合は「電子取引」に該当する可能性があります。複合機の受信設定を確認し、データ受信になっている場合は電子保存の対象になる点に注意してください。
LINEやチャットで受け取った見積書はどう保存する?
LINEやSlackで送られてきたPDFや画像も「電子取引」に該当します。データとして保存が必要です。建設業では現場間のやり取りにLINEを多用するケースがあるため、LINEで受け取った請求書類も電子保存する運用ルールを社内に周知しておくことが重要です。
下請けが対応していない場合はどうなる?
相手の対応状況に関係なく、自社が電子で受け取ったデータは電子で保存する義務があります。下請けがインボイス制度に対応しているかどうかとは別の論点で、電帳法はデータの「受け取り方」に着目する法律です。
税務調査で何を見られる?
電子データが「検索できる状態」で保存されているかを確認されます。ファイル名の統一ルールが守られていれば問題ありません。なお、2024年1月以降は売上高5,000万円以下の事業者について検索機能の確保が不要になる「猶予措置」が恒久化されました。税務職員からのダウンロードの求めに応じることができれば足りるため、中小建設会社の多くはこの恩恵を受けられます。
罰則はあるのか?
電帳法に違反した場合、直接的な罰金規定はありません。しかし、保存義務を怠った書類は税務調査で「証拠」として認められない可能性があります。最悪の場合、仕入税額控除が否認されたり、青色申告が取り消されるリスクがあるため、対応は必須です。

対応に使えるツール

無料で対応する場合

ツール費用方法
Google Drive無料(15GB)フォルダ分け + ファイル名ルール
Dropbox無料(2GB)同上
事務処理規程無料国税庁テンプレートをダウンロード

専用ツールで対応する場合

ツール月額特徴
freee会計2,680円〜電帳法対応の保存機能が標準搭載
マネーフォワード クラウド2,980円〜電帳法対応 + インボイス対応
invox980円〜電子取引データ保存に特化
Bill One要問合せ請求書の受領・保管を一元化

いずれもデジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)の対象です。詳しくは「建設業のIT導入補助金活用ガイド」をご覧ください。

ツール選定のポイント

クラウドストレージだけで対応するか、専用ツールを導入するかは、自社の取引量で判断するのが実務的です。目安として、月間の電子取引件数が50件以下であれば無料のクラウドストレージとファイル名ルールの運用で十分対応できます。50件を超えてくると、ファイル名の命名ミスや保存漏れが増えるため、自動で検索要件を満たしてくれる専用ツールの導入が現実的です。

また、インボイス制度への対応と電帳法対応は密接に関連しています。会計ソフトでインボイス対応と電帳法対応を同時に行えるツールを選ぶと、二重管理を避けられます。

電帳法対応のロードマップ — 建設業の場合

電帳法への対応は、現状把握から始めて段階的に進めるのが現実的です。建設業の取引実態に合わせたロードマップを整理します。

第1フェーズ(1〜2週間): 現状把握

自社でどのような書類が電子で受け渡しされているかを洗い出します。確認すべきポイントは3つです。

メールで受け取っている書類の種類と量を把握します。元請けからの注文書、下請けからの請求書、資材メーカーの見積書、各種サービスの領収書など。送り手と書類の種類を一覧化すると、ボリューム感がつかめます。

次に、現場事務所での受け取りと本社での受け取りの割合を確認します。現場単位で電子書類を受け取っているケースでは、現場ごとの運用ルールが必要になります。

最後に、既存のクラウドストレージやメール保存の状況を確認します。すでにクラウドに保存している書類があれば、ファイル名のルールを整えるだけで対応できる可能性があります。

第2フェーズ(2〜4週間): 保存ルールの整備

現状把握が終わったら、社内の保存ルールを文書化します。

フォルダ構成は「年度/月/書類種別」または「年度/現場名/書類種別」のいずれかで統一します。建設業の特性上、現場別に管理するほうが後から検索しやすいケースが多いです。

ファイル名ルールは「日付_取引先名_金額_現場名」で統一します。この命名規則を守ることで、検索要件を満たしつつ後から確認しやすい状態を維持できます。

事務処理規程は国税庁のサイトからテンプレートをダウンロードし、自社名と施行日を記入して社内で共有します。印刷して全社員に配布するとともに、電子でも保存しておきます。

第3フェーズ(1〜3ヶ月): 運用の定着

ルールが整備されたら、実際の運用を定着させます。定着の鍵は「習慣にする仕掛け」です。

週次または月次で「電子書類の保存漏れ確認」の時間を15分設ける習慣を作ります。最初の3ヶ月は月末に保存状況を確認し、漏れがあればその場で補完する。4ヶ月目以降は月1回のチェックで十分になるはずです。

現場から本社に電子書類が届いた際のフローを明確にしておくことも重要です。「現場事務所でメールを受け取ったら、その日のうちに共有フォルダに保存する」というルールを現場担当者に周知します。

第4フェーズ(取引量に応じて): ツールの導入検討

電子取引の件数が月50件を超えてきたら、専用ツールの導入を検討するタイミングです。件数が増えると、人力でのファイル名管理や保存確認に限界が来るため、自動化の仕組みが必要になります。

電子帳簿保存法とインボイス制度の関係

2023年10月に開始したインボイス制度と電帳法は、別の法律ですが実務上は密接に絡み合います。両方を理解しておくことが、建設会社の経理担当者にとって必須の知識です。

インボイスと電帳法の違い

インボイス制度は「誰から仕入れた消費税を控除できるか」に関する制度です。適格請求書(インボイス)を発行できる事業者(登録番号を持つ課税事業者)からの仕入れのみ、仕入税額控除が認められます。

電帳法は「書類をどのように保存するか」に関する法律です。電子で受け取った書類を電子のまま保存することを義務付けています。

つまり、インボイスの適格請求書を電子で受け取った場合、インボイス制度の要件(登録番号の確認・保存)を満たしつつ、電帳法の要件(電子データでの保存)も満たす必要があります。

建設業で特に注意すべきポイント

建設業では、下請け・孫請けが多段階で関与するため、インボイスへの対応状況が取引先によって異なります。登録番号を持っていない免税事業者の下請けからの請求書は、仕入税額控除が全額は認められないという問題が生じます。

電帳法の観点からは、相手がインボイス登録事業者かどうかにかかわらず、電子で受け取った書類は電子で保存する義務があります。「インボイスに対応していない事業者からの請求書だから保存しなくていい」ということにはならない点に注意が必要です。

インボイス登録番号の確認は、国税庁のインボイス登録番号検索サービスで行えます。取引開始前に確認しておき、その記録も保存しておくと税務調査への対応が楽になります。

建設業における税務調査への備え

電帳法に対応した保存が正しく行われているかどうかは、税務調査の際に確認されます。建設業は工事ごとの原価管理が複雑で取引先も多いため、税務調査の対象になりやすい業種の一つです。

税務調査で求められる確認事項

調査官が確認する主な項目は、電子保存された書類が検索できる状態にあるか、電子データの改ざんを防止する措置が取られているか、紙の書類と電子書類が混在していないかの3点です。

ファイル名が統一されたルール通りに命名されており、フォルダ構成が整理されていれば、調査官からの「この書類を見せてください」という要求に速やかに応じられます。反対に、ファイル名がバラバラで探すのに時間がかかる状態は、調査の長期化につながります。

税務調査に備えた準備

税務調査が入る可能性を想定して、以下の準備をしておくとスムーズに対応できます。

事務処理規程を最新版で印刷・保存しておきます。電子データの保存ポリシーを書面で示せることが、対応の誠実さを示す証拠になります。

電子保存の一覧表(どの取引先からどの書類を電子で受け取っているか)を作成しておくと、調査官への説明が効率的になります。

売上高5,000万円以下の会社は「猶予措置」が恒久化されており、調査官からのダウンロード要求に応じられれば検索機能の要件が緩和されます。この措置の適用対象かどうかを自社の売上高で確認しておきましょう。

導入時によくあるつまずきと対策

電帳法に対応しようとしたものの、途中で挫折するケースは少なくありません。建設業で特に多い3つの失敗パターンと対策を紹介します。

1つ目は「現場と本社の運用が統一されない」問題です。本社では電子保存のルールが浸透しても、複数の現場事務所でバラバラな運用になりがちです。対策として、A4用紙1枚に収まる簡潔なルールシートを作成し、各現場に掲示する方法が効果的です。

2つ目は「メールの添付ファイルを保存し忘れる」問題。受信メールに添付された請求書を開いて確認した後、保存を忘れてしまうケースです。対策として、「メールを開いたらすぐに保存フォルダに移す」というルールを徹底するか、メールの自動振り分け機能を活用して特定のフォルダに集約する方法があります。

3つ目は「途中で運用が形骸化する」問題です。最初は真面目にファイル名を統一していても、忙しくなると雑な保存に戻ってしまう。対策として、月末に10分だけ保存状況をチェックする時間を設ける習慣づけが有効です。完璧を目指す必要はなく、7〜8割ルール通りにできていれば実務上は問題ありません。

電帳法対応を会計・経理のDXとつなげる

電帳法への対応を「義務の履行」で終わらせず、会計・経理業務全体のDXの入口として活用する視点が重要です。電子書類を正しく保存する仕組みが整うと、次のステップとして書類の「自動取り込み」「自動仕訳」への展開が可能になります。

会計ソフトとの連携で自動化を進める

freeeやマネーフォワードなどのクラウド会計ソフトは、電帳法対応の保存機能に加えて、PDFの請求書から自動でデータを読み取り仕訳を提案する機能を持っています。メールで受け取ったPDFをクラウド会計に取り込むだけで、請求書の内容(取引先名、金額、日付)が自動で認識され、仕訳の候補が提示されます。

建設業では工事ごとの原価管理が必要なため、請求書ごとに「どの工事案件の費用か」という紐付けが重要です。クラウド会計ソフトに案件(プロジェクト)のコードを設定し、請求書取り込み時に案件を選択するだけで工事別の原価が自動集計される仕組みを作れます。毎月の試算表作成と工事別採算の把握が大幅に楽になります。

ペーパーレス化と電帳法対応を同時に進める

電帳法対応を機に、「受け取る書類をペーパーレスにする」取り組みと合わせて進めることで相乗効果があります。現在FAXで受け取っている書類を「メールのPDFに切り替えてほしい」と取引先に依頼することで、電帳法の対応対象が増えますが、同時に紙の書類の量が減り、ファイリングやスキャンの手間がなくなります。

建設業では「FAX文化」が根強く残っています。一度に全取引先をペーパーレスに切り替えるのは難しいですが、新規取引先からはメールでのやり取りを標準にする、既存取引先には少しずつ打診していくという段階的なアプローチが現実的です。

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電帳法対応とペーパーレス化を一体で進めた実装事例は次の記事で確認できます。

参考情報

よくある質問

電子帳簿保存法で建設業が対応すべきことは何ですか?
メールやクラウドで受け取った請求書・見積書・注文書を電子データのまま保存することが義務化されています。紙に印刷して保存するのではなく、電子で受け取ったものは電子で保存する必要があります。
電子帳簿保存法への対応に費用はかかりますか?
最もシンプルな方法は事務処理規程(国税庁テンプレートを利用)とクラウドストレージ(Google DriveやDropbox無料プラン)の組み合わせで、追加費用ゼロで対応可能です。
FAXで受け取った書類は電子保存が必要ですか?
FAXで受け取った紙の書類は紙の取引扱いなので従来通り紙で保存してOKです。ただし、複合機がデータとして受信している場合は電子取引に該当する可能性があります。
LINEで受け取った見積書も電子保存が必要ですか?
はい、LINEやSlackで送られてきたPDFや画像も電子取引に該当するため、データとして保存する必要があります。
電子データの保存方法にルールはありますか?
ファイル名を日付・取引先名・金額で統一し(例: 20260318_ABC建設_500000円.pdf)、検索できる状態で保存する必要があります。改ざん防止として事務処理規程の策定またはタイムスタンプの付与が必要です。
税務調査では何を確認されますか?
電子データが検索できる状態で保存されているかを確認されます。ファイル名の統一ルールが守られていれば問題ありません。売上高5,000万円以下の事業者は検索要件の猶予措置があり、ダウンロードの求めに応じられれば足ります。
電子帳簿保存法に違反した場合の罰則はありますか?
直接的な罰金規定はありませんが、保存義務を怠った書類は税務調査で証拠として認められない可能性があります。仕入税額控除の否認や青色申告取り消しのリスクがあるため、対応は必須です。

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