RPA
あーるぴーえー
毎月100件の請求書を手入力 ── その作業、30分に短縮できます
建設会社のバックオフィスで、月末に事務担当者が協力会社からの請求書を1件ずつExcelに手入力している光景は珍しくありません。100件の処理に月8〜15時間。その間に生じる転記ミスが、支払いトラブルの原因にもなっています。
RPA(Robotic Process Automation)は、こうしたパソコン上の定型的な事務作業をソフトウェアロボットに代行させる技術です。物理的なロボットではなく、パソコンの中で動くプログラムであり、データの転記、ファイルのダウンロード、メールの送受信、Excelへの入力・集計といった繰り返し作業を、人間の操作手順どおりに自動で実行してくれます。
2024年問題で事務スタッフの効率化も急務に
建設業のバックオフィスでは、日常的に多くの定型作業が発生しています。安全書類の作成、協力会社への発注書の送付、勤怠データの集計、経費精算の入力など、ルールが決まっている反復作業に多くの時間が費やされているのが実情です。
2024年問題で労働時間の削減が求められる中、現場の作業員だけでなく事務スタッフの業務効率化も重要な経営課題になっています。RPAを導入することで、事務スタッフは付加価値の高い業務に集中できるようになり、限られた人員で業務を回せる体制の構築につながります。
また、人間が行う手作業にはどうしても入力ミスがつきものですが、RPAは設定されたルールどおりに正確に処理を実行するため、ヒューマンエラーの削減にも効果があります。
画面操作を記録して再現する ── RPAの動作原理
RPAツールは、人間がパソコン上で行う操作(クリック、入力、コピー&ペーストなど)を記録し、同じ手順を自動的に再現する仕組みで動きます。プログラミングの知識がなくても、画面上の操作を記録するだけでロボットを作成できるツールが主流です。
建設業のバックオフィスにおける活用例としては、以下のようなものがあります。
安全書類の作成では、協力会社から受領した作業員名簿のデータを、所定のフォーマットに自動転記する処理が自動化できます。毎日の勤怠データ集計も、複数の現場から集まる出退勤記録を一括で取り込み、Excelや勤怠管理システムに自動入力することが可能です。
経費精算の分野では、領収書の情報を会計ソフトに転記する作業の自動化が進んでいます。請求書の発行・送付についても、工事台帳のデータから請求書を自動作成し、メールで送付するまでの一連の流れをRPAで処理できます。
RPAの導入規模には、デスクトップ型(個人のPC上で動くもの)とサーバー型(組織全体で管理するもの)があり、中小企業の場合はデスクトップ型から始めるのが一般的です。
建設業でのRPA活用事例(Before/After)
工事件数の多い中規模建設会社での実例として、協力会社からの請求書処理の自動化があります。Before の状態では、事務担当者が毎月末に100件前後の請求書をExcelの工事台帳に手入力しており、1件あたり5〜10分、合計で月8〜15時間を費やしていました。RPAを導入してPDFの請求書データを自動読み取り・転記するフローを構築したところ、同じ作業が月30分程度に短縮され、入力ミスによる支払い差異の発生もゼロになったと報告されています。
勤怠管理との連携では、ICカードや打刻アプリで収集した出退勤データを給与計算ソフトに自動転記するRPAを導入した事例が複数あります。手作業では月次締めの翌日に2〜3時間かかっていた作業が15分程度に削減され、経理担当者の残業を大幅に減らせた効果が報告されています。
安全書類関連では、グリーンファイルの様式に協力会社のデータを自動転記するRPAが活用されています。下請業者が変わるたびに書類を作り直す手間が長年の課題でしたが、RPAにより下請情報を登録するだけで必要書類が自動生成される仕組みを構築し、作業時間を70%以上削減した事例があります。
類似概念との違い
RPAと比較される技術として「マクロ(ExcelのVBA)」と「AI-OCR」があります。
Excelマクロ(VBA)はExcel内の操作を自動化するものであり、RPAのように複数のアプリをまたいだ操作には対応できません。一方RPAは、Excelだけでなく、会計ソフト・施工管理アプリ・ブラウザ・メールソフトなど、画面上のあらゆる操作を横断的に自動化できます。
AI-OCRは紙書類や画像のテキストを読み取る技術で、RPAと組み合わせて使うことが多く、「AI-OCRで書類を読み取り、RPAで会計システムに転記する」という一体的な自動化フローが定番の構成です。
生成AIとの違いも整理しておく必要があります。生成AIは文章作成や情報分析など「判断が必要な業務」に強みがあるのに対し、RPAは「ルールが明確な定型作業」の自動化が得意領域です。両者は補完関係にあり、最近は「生成AIが情報を整理し、RPAが処理を実行する」という組み合わせも登場しています。
導入コスト・費用の目安
RPAツールの費用は導入形態によって異なります。
デスクトップ型(個人PCで動作する1ライセンス)は月額1万〜3万円程度が相場です。代表的な製品としてはUiPath(ユーアイパス)、WinActor(NTTデータ)、Automation Anywhere などがあります。
クラウド型は月額3万〜10万円程度のものが多く、複数のPCやスタッフで共有して使える利点があります。サーバー型の企業向けライセンスは年間100万円以上になるケースもありますが、中小建設会社ではデスクトップ型かクラウド型から始めるのが現実的です。
IT導入補助金のデジタル化基盤導入枠を活用すれば、RPAツールの導入コストの最大75%(上限額あり)を補助できる可能性があります。補助金対象の製品・事業者はITツール補助金のポータルで確認できます。
最新動向(2024〜2026年)
2024年以降、RPAに生成AI機能を組み込んだ「インテリジェントオートメーション」が急速に普及しています。従来のRPAが苦手としていた「非定型な文書の処理」や「状況に応じた判断を含む作業」を、AI機能で補完できるようになり、自動化できる業務の範囲が大幅に広がりました。
建設業では、見積書の作成補助や工事写真の整理・報告書への自動挿入など、従来は人手に頼っていた業務にもRPA+AIの活用が進んでいます。施工管理アプリとの連携により、現場データを自動集計してレポートを生成するフローも実用化されつつあります。
国土交通省の「建設業DXガイドライン」においてもバックオフィスのデジタル化が推奨されており、RPA導入はDX推進の取り組みとして認定支援機関によるサポートを受けやすい領域です。
建設業のバックオフィスで自動化しやすい業務トップ5
RPAの導入を検討する際、まず「どの業務から自動化するか」を選定する必要があります。建設業のバックオフィスで自動化の効果が高い業務を、実績に基づいて整理します。
協力会社からの請求書処理が最も効果が出やすい領域です。PDFの請求書データをAI-OCRで読み取り、工事台帳や会計ソフトに自動転記する一連の流れをRPA化できます。月間100件以上の請求書を処理する会社では、月10時間以上の削減が期待できます。
勤怠データの集計・転記も自動化しやすい業務です。ICカードや打刻アプリで収集した出退勤データを給与計算ソフトに自動で連携させることで、月末の集計作業を大幅に短縮できます。
安全書類(グリーンファイル)の作成は、協力会社のデータを所定のフォーマットに転記する作業の自動化です。下請業者が変わるたびに書類を再作成する手間が削減されます。
経費精算の会計ソフトへの転記も、レシートのOCR読み取りとRPAの組み合わせで自動化が進んでいます。
工事完了報告書の定型部分の自動生成は、施工管理アプリのデータをRPAが収集し、報告書のテンプレートに自動入力するフローです。
自動化の候補を選ぶ際は、月間の作業時間が10時間以上あり、手順が明確に定まっていて、例外処理が少ない業務を優先するのが成功の鉄則です。
RPAの主要ツールと建設業での選び方
建設会社がRPAツールを選定する際の比較ポイントを整理します。
UiPath(ユーアイパス)は世界シェア最大のRPAツールで、無料版(UiPath Community Edition)が個人・小規模事業者向けに提供されています。操作を画面上で録画してシナリオを作成する方式で、プログラミング知識がなくても基本的な自動化が可能です。有料版は月額約5万円からです。
WinActor(NTTデータ)は日本国産のRPAツールで、日本語のUIとサポート体制が充実しています。官公庁や建設業での導入実績が多く、国内の業務ソフトとの相性が良い点が強みです。デスクトップ型のライセンスは年間90万円程度です。
Power Automate(マイクロソフト)はMicrosoft 365に含まれるRPA機能で、Excelや Outlookとの連携に強みがあります。Microsoft 365を契約している建設会社であれば、追加費用なしでデスクトップフローの自動化が始められます。
選定の判断基準として、自社で使っている業務ソフトとの相性、無料版やトライアル版の有無、日本語サポートの充実度を重視することをおすすめします。月額費用だけでなく、シナリオの作成・メンテナンスにかかる工数も含めたトータルコストで比較することが重要です。
「何でも自動化できる」は幻想 ── RPA導入の失敗パターン
「RPAを導入すれば何でも自動化できる」という期待過剰が導入失敗の主因です。RPAが得意なのは画面操作が決まっていて例外が少ない業務に限られます。業務フローが整理されていない状態でRPAを導入しても、複雑なシナリオを維持するコストが大きくなり、むしろ工数が増えることがあります。
導入前に「業務の棚卸し」を行い、自動化の候補となる業務を年間作業時間順にリストアップするステップが成功の鍵です。月間10時間以上の定型業務が候補の目安といわれています。
また、RPAが動作するシステムのUI(画面のレイアウト)が変更されると、RPAのシナリオが動かなくなることがあります。SaaSの画面更新に対してメンテナンスコストが発生する点は、導入前に認識しておく必要があります。
月額数万円から始められる ── 中小建設会社のRPA活用の現実解
RPAの導入コストは以前と比べて大幅に下がっており、月額数万円で利用できるクラウド型RPAツールも登場しています。事務員1人分の単純作業を代替できるだけでも、人件費削減の効果は大きいといえます。
ただし、RPAはあくまで「定型業務」の自動化ツールであり、判断が必要な業務やイレギュラー対応には向きません。導入前に自社のどの業務がRPAに適しているかを見極める作業が欠かせません。
導入のコツは、いきなり大規模に展開するのではなく、効果が測定しやすい1つの業務から試してみることです。月間の作業時間がどれだけ削減されたかを数値で把握し、費用対効果が確認できたら対象業務を広げていく方法が堅実です。
参考情報
- IT導入補助金2025公式サイト — 独立行政法人中小企業基盤整備機構
- 国土交通省「建設業の生産性向上に向けた施策」 — 国土交通省、2024年
- 総務省「情報通信白書 RPA導入状況」 — 総務省(企業のRPA導入率と効果に関する統計)
よくある質問
- RPAの導入にプログラミング知識は必要ですか?
- 多くのRPAツールはノーコードまたはローコードで操作でき、プログラミング知識がなくても利用可能です。画面上の操作を録画して自動化シナリオを作成する方式が主流で、事務スタッフが自分で業務の自動化に取り組めるツールが増えています。
- RPAで自動化できない業務はどんなものですか?
- 人間の判断が必要な業務、ルールが頻繁に変わる業務、例外処理が多い業務はRPAに向きません。たとえば、見積書の内容を精査して値引き交渉をする業務や、状況に応じた安全指示を出す業務は自動化の対象外です。定型的なルーチンワークほどRPAの効果が高くなります。
- RPAの導入費用はどのくらいかかりますか?
- デスクトップ型のRPAツールであれば月額1万円〜5万円程度から導入可能です。サーバー型の大規模なRPAは年間数百万円のライセンス費用がかかることもあります。中小企業の場合はデスクトップ型やクラウド型から始め、IT導入補助金の活用も検討するとよいでしょう。
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