この記事の監修 山本 貴大 / ケンテク編集長

150社以上のマーケティング/コンサルティング支援実績。認定支援機関と連携した補助金計画書の作成支援も手がける。

建設業で評価制度が必要な理由

中小建設会社で最も多い評価方法は「社長の感覚」。「あいつは頑張っているから昇給」「勤続年数が長いから役職を」「資格を持っているから手当を」。これでは社員は「何をすれば評価されるのか」がわかりません。結果、「頑張っても報われない」と感じて辞めていきます。

厚生労働省の「雇用動向調査」によると、建設業の離職率は約9〜10%(2023年)。全産業平均とほぼ同水準ですが、技能者に限ると若年層の離職率は高卒で約40%、大卒で約30%(入社3年以内)に達します。離職理由の上位に「処遇への不満」「キャリアの見通しが立たない」が含まれており、評価制度の不透明さが離職の一因であることがデータからも読み取れます。

国土交通省が推進する建設キャリアアップシステム(CCUS)も、技能者の能力を「見える化」し、処遇改善につなげることを目的としています。CCUSでは技能者の経験や保有資格をデータベース化し、レベル1〜4の4段階で能力を評価します。このシステムと連動した評価制度を構築すれば、社内評価の客観性がさらに高まります。

評価制度のゴール

社員が「何を頑張れば、いつ、いくら上がるか」を事前に知っている状態を作ること。不透明な評価が離職の原因。透明な評価が定着の鍵。

「社長の感覚評価」が引き起こす3つの問題

評価制度がないことで、具体的にどのような問題が起きるかを整理します。

一つ目は「古参社員と新人の給与逆転」。年功で昇給を続けた結果、能力の高い新人よりもパフォーマンスの低いベテランのほうが給与が高くなるケースがあります。これは新人の不満だけでなく、採用活動にも悪影響を与えます。

二つ目は「評価者によるブレ」。社長が見ていた社員は高く評価され、目立たない社員は見過ごされる。部長が2人いれば、それぞれの基準で評価が変わります。評価のブレは「えこひいき」という不信感を生み、組織の士気を下げます。

三つ目は「退職時の交渉に使われる」。評価基準がないため、退職を申し出た社員に「給料を上げるから残ってくれ」と場当たり的な対応をする場面が生まれます。これが他の社員に知られると「辞めると言えば給料が上がるのか」という負の連鎖を引き起こします。

中小建設会社向けの評価制度(シンプル版)

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大企業のような複雑な評価制度は不要。中小建設会社には以下の「3軸評価」で十分です。

評価の3軸

評価内容ウエイト
技能・資格保有資格、技能レベル40%
業務遂行担当現場の品質・工期・安全40%
姿勢・行動コミュニケーション、後輩指導、改善提案20%

軸1: 技能・資格(40%)

最も客観的で、建設業に合った評価軸。CCUSのレベル判定と連動させることで、さらに客観性を高められます。

等級要件基本給目安CCUSレベル
1等級未経験〜基本作業ができる22万円レベル1
2等級一通りの作業を一人でできる25万円レベル1〜2
3等級2級施工管理技士保有28万円レベル2
4等級1級施工管理技士保有33万円レベル3
5等級監理技術者+現場所長経験38万円レベル4

等級と基本給を事前に公開する。社員は「2級を取れば28万円になる」と明確にわかる。この透明性が最大のポイントです。

なお、基本給の金額は自社の賃金水準に合わせて調整してください。上記は従業員20〜50名規模の中小建設会社を想定した参考値です。業界の平均年収データを確認し、同業他社と比べて見劣りしない水準を設定することが重要です。

軸2: 業務遂行(40%)

半期ごとに評価。5段階で評価する。

評価項目SABCD
品質(施工品質・手直しの少なさ)期待を大幅に超えた期待以上期待通りやや不足大幅に不足
工期(納期遵守)前倒しで完了期日通り軽微な遅延遅延あり大幅遅延
安全(事故・ヒヤリハット)安全提案あり無事故軽微な指摘ヒヤリハットあり事故あり
コスト(原価管理)予算内+改善提案予算内軽微な超過超過あり大幅超過

評価項目ごとにS=5点、A=4点、B=3点、C=2点、D=1点として合計点を算出します。B評価が標準であることを明示し、B以上の評価には具体的な根拠を記録しておきます。

評価の賞与への反映方法

合計点賞与への反映
16〜20点基準額の130%支給
12〜15点基準額の110%支給
8〜11点基準額の100%支給(標準)
4〜7点基準額の90%支給

軸3: 姿勢・行動(20%)

定性的な評価。上司と本人の面談で合意する。

項目評価基準
コミュニケーション報連相ができているか。元請け・下請けとの関係構築
後輩指導後輩への技術指導、メンター的な関わり
改善提案業務改善の提案を行っているか
勤怠遅刻・欠勤の頻度。有給取得の計画性
DX・ICT活用施工管理アプリの活用、デジタルツールの習熟

姿勢・行動の評価は主観が入りやすいため、「具体的なエピソード」を記録することが重要です。「コミュニケーションが良い」ではなく「A現場で協力会社との調整を率先して行い、工程遅延を防いだ」のように事実ベースで記録してください。

評価制度の導入ステップ

1

等級表を作る(1週間)

上記の5等級をベースに、自社の給与テーブルに合わせて等級と基本給を設定。業界平均との比較も行う。

2

評価シートを作る(1週間)

業務遂行と姿勢・行動の評価シート(A4で1枚)を作成。ExcelでOK。

3

全社員に説明する(1日)

朝礼や全体会議で制度を説明。等級表と評価基準を全員に配布。質疑応答の時間を設ける。

4

試行運用する(6ヶ月)

最初の半期は「試行」として運用。評価結果を賞与に反映(昇給には使わない)。

5

フィードバックを収集(試行終了後)

社員から制度への意見を収集。使いにくい点、不公平に感じる点を洗い出す。

6

本格運用(6ヶ月後〜)

試行の結果を踏まえて制度を修正。本格運用開始。評価結果を昇給にも反映。

いきなり昇給に反映しない

新しい評価制度をいきなり昇給に反映すると、「前より下がった」社員が出て不満が爆発します。最初の半年は賞与のみに反映し、制度への理解と納得感を醸成してから昇給に適用しましょう。

制度導入時に社員から出やすい反発と対処法

反発の内容対処法
「勤続年数が評価されないのか」勤続手当は別途維持する。等級制度は能力評価であることを説明
「現場の当たり外れで評価が変わるのでは」工期や難易度を加味した評価基準を設ける
「評価者の好き嫌いが入るのでは」姿勢・行動はエピソード記録を必須とし、客観性を担保
「忙しくて面談の時間が取れない」半期に1回30分の確保は経営判断。現場完了のタイミングに合わせる

評価面談の進め方

面談の基本ルール

面談は半期に1回(4月と10月など)、1人30分、上司と1対1で実施します。事前に本人にも自己評価シートを記入してもらい、面談当日は自己評価と上司評価を突き合わせる形で進めます。

面談の流れ

時間内容ポイント
0〜5分アイスブレイク。最近の調子を聞く堅くならない雰囲気を作る
5〜15分本人の自己評価を聞く。「自分でどう思うか?」先に本人に話させる。途中で遮らない
15〜25分上司の評価を伝える。良い点を先に、改善点は具体的に必ず「良い点→改善点」の順番で
25〜30分次の半期の目標を一緒に決める目標は本人に決めさせ、上司が確認する形に

面談で言うべきこと / 言ってはいけないこと

言うべき言ってはいけない
「○○現場の品質は素晴らしかった」(具体的に褒める)「頑張ってるね」(抽象的)
「安全面で○○の改善を期待したい」(具体的な改善点)「もっとしっかりしろ」(抽象的)
「次の半期は2級の試験に挑戦しよう」(具体的な目標)「もっと頑張れ」(抽象的)
「Bさんの指導を丁寧にやってくれたと聞いている」(事実ベース)「周りからの評判が悪い」(伝聞の曖昧な表現)

評価面談の記録フォーマット

面談の内容は必ず記録に残してください。A4用紙1枚で十分です。記録項目は以下の5つです。

  1. 今期の主な成果(具体的なエピソード2〜3個)
  2. 改善が必要な点(具体的に1〜2個)
  3. 本人の自己評価と上司評価の差異
  4. 次の半期の目標(1〜2個に絞る)
  5. 資格取得の計画

記録を残しておけば、次の面談の際に「前回の目標はどうだったか」を振り返ることができ、評価の一貫性が保たれます。

資格手当の設計

評価制度と連動する資格手当は、最も即効性のある定着施策。経審のZ点にも影響するため、社員の資格取得は会社全体の評点アップにもつながります。

資格手当額/月年間効果経審への影響
2級施工管理技士+20,000円+240,000円Z点加算あり
1級施工管理技士+50,000円+600,000円Z点加算あり
2級建築士+30,000円+360,000円
1級建築士+80,000円+960,000円
監理技術者+50,000円+600,000円Z点加算あり

資格手当の金額は「資格を取ることで会社が得る経済的メリット」から逆算すると、経営者にも社員にも納得感のある設計になります。1級施工管理技士を保有する社員がいれば、その社員を監理技術者として配置できる現場の受注が可能になります。受注額の増加と比較すれば、月5万円の資格手当は十分にペイする投資です。

資格取得支援制度との連動

資格手当だけでなく、取得までの過程を支援する仕組みもセットで整備してください。

支援内容金額目安
受験料の全額負担1級施工管理技士: 約10,000円
通信講座・スクール費の補助5〜20万円(全額or半額)
合格祝金2級: 5万円、1級: 10万円
試験前の勉強時間確保試験前1ヶ月は残業禁止

評価制度と採用の連動

評価制度を整備することは、定着率の向上だけでなく採用力の強化にもつながります。

採用サイトに等級表とモデル年収を掲載すれば、「この会社に入ったら、何年後にいくら稼げるか」が求職者に明確に伝わります。給与の幅を「月給25〜45万円」と曖昧に書くよりも、「未経験22万円→2級取得で28万円→1級取得で33万円」と具体的に示すほうが、応募の質が上がります。

面接でも「当社は等級制度で評価基準を明確にしています」と伝えることで、「透明な評価を求める」優秀な人材に刺さります。

評価制度の定着効果 — 導入した企業の事例

評価制度を整備した中小建設会社の事例を3社分紹介します。いずれも従業員20〜60名規模の企業です。

事例1: 建築リフォーム会社(従業員28名・埼玉県)

「勘と年功で給与を決めていた」状態から脱却したケース。社長が全給与を決めていたため、社員の不満が積もりやすい状況だった。離職者が3年間で8名発生し、採用コストだけで1,200万円以上を使っていたと試算している。

5等級の等級表と資格手当の制度を導入し、全社員に説明。試行運用から始め、半年後に本格運用に移行した。制度導入後の1年間で離職者は1名にとどまり、さらに「透明な評価制度がある」という情報が口コミで広がり、採用応募数が前年比1.5倍になったという。

事例2: 土木施工会社(従業員42名・岡山県)

資格手当の設計を見直したことで社員の資格取得が加速したケース。以前は資格手当の基準が不明確で、取得しても昇給に直結しない状況だった。

2級施工管理技士に月2万円、1級に月5万円の手当を明確化し、合格祝金10万円も設定した。受験費用の全額負担も開始。その結果、翌年の施工管理技士試験の受験者数が前年の3倍に増え、1級の合格者が2名誕生した。資格手当の追加支出は月約12万円だが、2名が1級を取得したことで受注できる工事の規模が拡大し、年間売上が増加している。

事例3: 電気工事会社(従業員18名・宮城県)

評価面談の導入が定着率改善に直結したケース。小規模のため制度設計よりも「話す場」を設けることを優先。半期に1回の1on1面談のみを制度化した。

特別な評価シートは使わず、「この半期でよかったこと」「困ったこと」「次にやりたいこと」を30分話す形式にした。シンプルにもかかわらず、「会社が自分に関心を持ってくれていると感じる」という社員の声が増え、面談導入後の1年間で離職者ゼロを達成した。

人材確保等支援助成金の活用

評価制度の整備や賃金改善に活用できる助成金として「人材確保等支援助成金(雇用管理制度助成コース)」があります。

この助成金は、雇用管理制度(評価・処遇制度、研修制度、健康づくり制度、メンター制度、短時間正社員制度)を新たに導入・実施し、離職率の低下目標を達成した場合に最大57万円が助成される制度です。

項目内容
対象企業雇用保険適用事業主
助成額57万円(大企業は47.5万円)
対象となる制度評価・処遇制度、研修制度、メンター制度等
目標設定制度導入前後で離職率を低下させること
申請のタイミング制度導入前に計画を提出する必要あり

申請には事前に「雇用管理改善計画」を提出する必要があります。社会保険労務士と連携して進めると、手続きがスムーズです。

出典: 厚生労働省「人材確保等支援助成金」(2026-04-27確認)

評価制度がない企業に起きる「静かな辞職」

近年、若手を中心に「静かな辞職(Quiet Quitting)」という現象が注目されています。これは実際に離職するのではなく、最低限の仕事しかしなくなる状態です。明確な評価基準がなく「頑張っても報われない」と感じた社員が、精神的にすでに職場から離れているケースです。

統計的にも、評価基準の不透明さはエンゲージメントの低下と強く相関しています。パーソル総合研究所の「はたらく人の幸福度調査」でも、処遇への納得感がある社員はそうでない社員と比べてエンゲージメントスコアが大幅に高い結果が出ています。

建設現場では「静かな辞職」状態の社員が安全管理を疎かにするリスクもあります。労働災害の防止という観点からも、評価制度の整備は経営上の優先事項です。

評価制度をデジタルで管理する

クラウド型の人事評価ツールを使えば、評価シートの管理、面談の記録、昇給履歴の管理がすべてシステム上で完結します。Excelで管理する場合と比べて、評価の一貫性が保ちやすく、過去の評価を振り返る際の検索性も高いです。

中小建設会社向けに使いやすい人事評価ツールをいくつか紹介します。

ツール特徴費用目安
カオナビUIが直感的で操作しやすい。建設業への導入実績も多い月額5〜20万円(規模による)
ジョブカン評価人事・労務・勤怠との連携が強い。中小企業向け月額1,000〜2,000円/人
HRBrainスモールスタートができる。評価シートのテンプレートが豊富月額数万円〜
Excelテンプレート無料。カスタマイズ自由。人数が少ない段階では十分0円

従業員30名未満の段階ではExcelで十分なケースが多いですが、50名を超えたあたりからクラウドツールへの移行を検討すると、管理コストを抑えながら評価の精度を高められます。

よくある質問(FAQ)

評価制度の設計・運用で実際に寄せられる疑問に答えます。

よくある質問

評価制度を導入したいが、何から始めればよいですか?
最初の一歩は等級表の作成です。「1等級(未経験)から5等級(監理技術者)まで」の基準と基本給目安を、A4用紙1枚に書き出すことから始めてください。完璧でなくても構いません。一度作れば修正しながら磨けます。評価シートは等級表を作ってから設計します。
社員が少ない(10名未満)でも評価制度は必要ですか?
小規模であっても評価制度の骨格は有効です。社員数が少なければ、等級表だけ作って面談を年1回実施する程度のシンプルな形から始めても効果があります。「何をすればいくらになるか」が言語化されているだけで、社員の安心感は大きく変わります。
年功序列を完全に廃止すると古参社員が反発しませんか?
完全廃止は必要ありません。勤続年数に応じた「勤続手当」を別途設けることで、長く働いたことへの敬意を示しながら、能力評価の等級制度と共存させることができます。例えば「5年で月1万円、10年で月2万円の勤続手当」を維持しながら、基本給は等級制度に移行するハイブリッド型にすると、反発を最小化できます。
評価が主観的になるのを防ぐにはどうすればよいですか?
「業務遂行」の評価については、評価根拠となる具体的なエピソードの記録を義務化することが有効です。事実を積み重ねることで評価の透明性が確保されます。
建設業特有の「現場の当たり外れ」は評価にどう反映しますか?
現場の難易度や環境(遠方・夜間・悪天候が多いなど)を加味した評価基準を設けることが重要です。「期待を超えた」の定義に「難易度を考慮して」という一文を加えることで、不公平感を軽減できます。また、担当した現場の概要(規模・工期・難易度)を評価シートに記録し、評価の根拠として残すことで、次回以降の評価精度も上がります。

よくある質問

建設業で評価制度が必要な理由は何ですか?
社員が何をすれば評価されるのかわからない不透明な評価が離職の大きな原因です。建設業の若年層離職率は高卒で約40%、大卒で約30%に達しており、処遇への不満やキャリアの見通しが立たないことが主な理由です。透明な評価制度が定着の鍵になります。
中小建設会社に合った評価制度とは?
技能・資格(40%)、業務遂行(40%)、姿勢・行動(20%)の3軸評価がシンプルで運用しやすいです。5段階の等級表を作り、等級と基本給を事前に公開するのがポイントです。CCUSのレベル判定と連動させるとさらに客観性が高まります。
評価制度の導入にどれくらい時間がかかりますか?
等級表の作成に1週間、評価シートの作成に1週間、全社説明に1日、その後6ヶ月の試行運用を経て本格運用開始となります。約7〜8ヶ月で運用を確立できます。
評価面談はどのように行えばよいですか?
半期に1回、1人30分、上司と1対1で実施します。本人の自己評価を聞き、上司の評価を伝え(良い点を先に、改善点は具体的に)、次の半期の目標を一緒に決める流れが効果的です。面談の内容はA4用紙1枚で記録を残してください。
建設業の資格手当の相場はどれくらいですか?
2級施工管理技士で月2万円、1級施工管理技士で月5万円、1級建築士で月8万円が一般的な相場です。資格手当は最も即効性のある定着施策で、経審のZ点加算にもつながるため会社にとってもメリットがあります。
新しい評価制度を導入する際の注意点は?
いきなり昇給に反映しないことが重要です。最初の半年は賞与のみに反映し、制度への理解と納得感を醸成してから昇給に適用しましょう。社員からの反発(勤続年数の扱い、評価者の公平性など)への対処法も事前に準備しておくとスムーズです。

参考情報


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