この記事の監修 山本 貴大 / ケンテク編集長

150社以上のマーケティング/コンサルティング支援実績。認定支援機関と連携した補助金計画書の作成支援も手がける。

建設業の若手が辞める理由 — データで見る離職の実態

厚生労働省の「新規学卒就職者の離職状況」によると、建設業の高卒新卒者の3年以内離職率は約42%、大卒でも約30%に達しています。全産業平均(高卒約37%、大卒約32%)と比較しても高い水準で、特に高卒者の離職率の高さが際立ちます。

若手が辞める理由のトップ5を見てみましょう。

順位理由割合
1長時間労働・休日が少ない35%
2人間関係(上司・先輩との関係)25%
3将来のキャリアが見えない20%
4給与への不満12%
5危険・体力的にきつい8%

注目すべきは、上位3つの理由が「会社の仕組み」で改善可能な項目だという点です。長時間労働は働き方改革やDX導入で削減でき、人間関係はメンター制度や教育体制で改善でき、キャリアの見通しはキャリアパスの明示で解決できます。

「根性がない」は間違い

若手が辞めるのは「根性がないから」ではありません。労働環境と育成の仕組みが整っていないから辞めるのです。環境を整えれば、建設業でも若手は定着します。

離職のコストを計算する

若手が1人辞めた場合の損失は想像以上に大きいです。

費用項目金額の目安
採用コスト(求人広告・エージェント手数料)50〜100万円
OJT期間の先輩社員の人件費(3ヶ月)80〜120万円
研修費用(安全教育・資格取得支援)20〜40万円
業務の空白期間による機会損失100〜200万円

合計すると、1人の離職で250〜460万円のコストが発生する計算です。年間3人辞めれば750万〜1,380万円。この金額を育成の仕組みに投資するほうが、企業にとって遥かに合理的です。

仕組み1: 入社1年目のロードマップを明示する

なぜ必要か

若手が最も不安に感じるのは「先が見えないこと」です。「今日は何をすればいいですか?」と毎日聞くのは、本人にとってもストレスになります。厚生労働省の調査でも、「仕事の見通しが立たない」は若手のストレス要因の上位に常に入っています。

具体的にやること

入社前に「1年間のロードマップ」を渡す。紙1枚でかまいません。

1

入社〜1ヶ月: 安全教育+現場見学

安全衛生教育、現場のルール、道具の名前と使い方。先輩に同行して現場の雰囲気を掴む。

2

1〜3ヶ月: OJT(先輩とペア作業)

先輩と2人1組で作業。基本的な作業を実際にやりながら覚える。1日の振り返りを15分行う。

3

3〜6ヶ月: 小さな担当を持つ

現場の一部(例: 写真撮影担当、材料搬入の管理)を任される。責任を持つ経験を積む。

4

6ヶ月〜1年: 資格取得に挑戦

2級施工管理技士補などの初級資格に挑戦。合格すれば手当がつくことを事前に伝える。

ポイント: 「見通し」を伝える

「3ヶ月後にはこれができるようになる」「半年後にはこの資格に挑戦する」「1年後にはここまで任せる」。具体的な見通しがあれば、若手は目標を持って働けます。

ロードマップ作成のコツ

ロードマップは完璧でなくてよいのですが、3つの要素を必ず含めてください。

到達目標を具体的に書くことが重要です。「現場に慣れる」ではなく「墨出しが一人でできるようになる」「工事写真を指示なしで撮影できるようになる」のように、判断基準が明確な目標を設定します。

スキルチェックの時期を入れることも大切です。3ヶ月、6ヶ月、1年の節目で上司と面談し、到達度を確認する機会を設けます。このタイミングで「できるようになったこと」をフィードバックすると、若手の自己効力感が高まります。

次のステップを常に提示することも欠かせません。「1年目が終わったら何があるのか」を入社時点で示しておくことで、短期離職のリスクを下げられます。

仕組み2: メンター制度を導入する

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なぜ必要か

建設現場では「見て覚えろ」の文化が根強く残っています。しかし今の若手にこのアプローチは通用しません。国土交通省の「建設業における人材確保・育成に向けた取組」でも、OJTだけに頼らない体系的な教育の必要性が指摘されています。わからないことを「聞ける相手」がいるかどうかが、定着の分かれ目です。

メンター制度の設計

項目内容
メンターの選定年齢が5〜10歳上の先輩(ベテランすぎると距離が遠い)
面談頻度週1回、15分の1on1ミーティング
話す内容仕事の悩み、人間関係、体調、プライベートの困りごと
メンターの報酬メンター手当(月5,000〜10,000円)を支給
上司への報告月1回、メンターから人事/上司にフィードバック

やってはいけないことがあります。メンターに直属の上司を指定してはいけません。部下は本音を言えないからです。面談を「報告」の場にするのもNGです。最初は雑談でOKで、信頼関係の構築が目的です。メンターの負荷を無視するのも避けてください。手当を出し、業務量を調整する配慮が必要です。

メンター制度の運用で見落としがちなポイント

メンター自身への教育も重要です。「若手の話を聞く」スキルは自然に身につくものではありません。傾聴のポイント、相談を受けた際の対応フロー(深刻な問題は人事に報告する等)を事前にレクチャーしておきます。

メンターと若手の相性が合わない場合の変更ルールも決めておきましょう。「合わないから我慢しろ」は本末転倒です。3ヶ月を目安にメンターの変更が可能であることを明示しておくと、双方にとって安心材料になります。

仕組み3: 資格取得を全力で支援する

なぜ効果があるか

建設業は資格を取れば確実にキャリアアップできる業界です。「頑張れば報われる」が数字で明確に見えます。厚生労働省の調査でも、若手の定着率が高い建設会社の共通点として「資格取得支援制度の充実」が挙げられています。

資格取得支援のパッケージ

支援内容具体例
受験料の全額負担2級施工管理技士: 約14,000円
テキスト・講座費の補助通信講座: 3〜10万円 → 全額または半額補助
勉強時間の確保試験前1ヶ月は残業禁止。週1日の勉強日を設定
合格祝金2級: 5万円、1級: 10万円
資格手当2級: +2万円/月、1級: +5万円/月
資格手当の効果

「1級施工管理技士を取れば月5万円の手当がつく」= 年間60万円の昇給。これは若手にとって非常に大きなモチベーション。「この会社にいれば、5年後にはこれだけ稼げる」と具体的に見えることが定着につながります。

資格取得を「イベント」にする

合格者を社内報や朝礼で紹介し、経営者自ら祝福する。これだけのことで「会社が自分の成長を認めてくれている」という実感が生まれます。合格祝いの食事会を開催する企業もあり、こうした小さな承認の積み重ねが定着率に影響します。

人材開発支援助成金を活用すれば、資格取得支援にかかる費用の一部を国から助成してもらえます。従業員に対する職業訓練の経費と訓練期間中の賃金が助成対象です。

仕組み4: 労働環境を改善する(週休2日・残業削減)

やるべきこと

離職理由の1位は「長時間労働・休日が少ない」です。2024年4月から建設業にも時間外労働の上限規制(年720時間、月100時間未満)が適用されており、法令遵守の観点からも環境改善は必須になりました。

施策難易度効果導入コスト
勤怠管理のデジタル化労働時間の可視化 → 残業削減の第一歩月1,000〜3,000円/人
週休2日の段階的導入若手の採用力が大幅向上工期・受注計画の見直し
施工管理アプリの導入書類作成時間の削減 → 残業減月500〜3,000円/人
工期に余裕を持った受注根本的な解決策受注戦略の見直し

国土交通省は公共工事における4週8閉所(完全週休2日)を推進しており、2026年度末までの達成を目標としています。民間工事でも大手ゼネコンを中心に週休2日が広がりつつあります。

デジタル化で「書類残業」を減らす

若手が「きつい」と感じる大きな要因に、現場作業が終わった後の書類業務があります。施工管理アプリを導入すれば、写真整理、日報作成、工程表の更新がスマホやタブレットで完結し、書類作成にかかる時間を50〜70%削減できるという導入事例もあります。

「書類を減らす=若手が早く帰れる=定着率が上がる」という因果関係を経営層が理解し、DXへの投資判断をすることが重要です。詳しくは「建設業の働き方改革」をご覧ください。

仕組み5: 「この会社にいる意味」を伝え続ける

キャリアパスの見える化

入社時に「10年間のキャリアマップ」を渡す。

年次役割想定年収取得目標の資格
1年目現場スタッフ(先輩とペア)350万円玉掛け・足場
3年目現場スタッフ(小規模現場担当)420万円2級施工管理技士
5年目現場監督(中規模現場担当)500万円1級施工管理技士
7年目主任(複数現場を管理)580万円監理技術者
10年目所長候補650万円
数字で見せることが大事

「頑張れば上に行ける」ではなく「3年後に420万円、5年後に500万円」と具体的な数字で示す。建設業はキャリアアップの道筋が明確な業界。これをちゃんと伝えることが定着の鍵。

建設キャリアアップシステム(CCUS)の活用

国土交通省が推進する建設キャリアアップシステム(CCUS)は、技能者の経験や資格をデータベースに登録し、キャリアの見える化を図る仕組みです。2023年度末時点で約130万人の技能者が登録しており、今後は公共工事における登録が実質義務化される方向です。

CCUSを活用すると、若手でも自分の経験値やレベルが客観的に可視化されます。「レベル2からレベル3に上がった」という進捗が見えることで、成長を実感しやすくなります。

会社のビジョンを定期的に共有する

年に1〜2回、経営者が若手に対して直接「会社の方向性」「5年後の事業計画」「若手に期待すること」を語る場を設けてください。規模が小さい会社ほど経営者との距離が近いのが強みです。

「この会社は成長している」「自分が必要とされている」という実感が、転職サイトの誘惑に負けない定着力を生みます。

助成金の活用で負担を軽減する

若手育成の仕組みづくりに活用できる助成金がいくつかあります。

助成金概要主な要件
人材開発支援助成金従業員の職業訓練にかかる経費と賃金の一部を助成事前に訓練計画の届出が必要
キャリアアップ助成金非正規雇用の正社員化や処遇改善に助成正社員転換等の取り組みが必要
トライアル雇用助成金未経験者を試用期間付きで雇用する場合に助成ハローワーク経由の採用が条件

助成金の制度は年度ごとに変更されるため、最新情報は厚生労働省の助成金ページで確認してください。認定支援機関や社会保険労務士に相談すると、申請手続きをスムーズに進められます。

若手が定着する建設会社の事例

若手育成の仕組みを整備して定着率を改善した中小建設会社の事例を3社紹介します。

事例1: 建築施工会社(従業員34名・千葉県)

メンター制度と1年目ロードマップを同時導入したケース。以前は「3年目以内の離職率が50%超」という状況で、採用コストが年間1,000万円近くに膨らんでいた。

制度設計にかけた時間は延べ2週間程度。等級表(4段階)と1年目ロードマップを作成し、各新入社員に入社前日に渡す形にした。メンターは年齢5〜10歳上の先輩から社長が指名。週1回15分の1on1に月8,000円のメンター手当を設定。

制度導入後の2年間で、3年目以内の離職者はゼロ。以前は毎年3〜5名が辞めていたのが、ゼロになった。採用コストの削減分だけで、メンター手当の総支出(年間約20万円)の数十倍の効果があったと社長は評価している。

事例2: 土木工事会社(従業員52名・岐阜県)

資格取得支援を徹底したことで、社員の働くモチベーションが大きく変わったケース。受験料の全額負担(1級施工管理技士で計21,000円程度)と合格祝金10万円を設定し、試験前1ヶ月は定時退社を義務化した。

制度導入から2年間で1級施工管理技士の合格者が5名誕生。合格者に対して朝礼で表彰し、証書のコピーを社内掲示板に貼るという小さな取り組みも、他の社員のモチベーションを高めた。

「資格を取れば確実に月5万円上がる」という制度の透明性が、「この会社に長くいる意味」を社員に実感させているという。転職活動をしていた25歳の社員が「1級を取るまでここにいる」と留まった事例もある。

事例3: 電気設備工事会社(従業員19名・愛媛県)

週休2日の段階的導入が若手採用に劇的な効果をもたらしたケース。2025年から土曜日を基本休日に変更(月1〜2回は必要に応じて出勤可)し、年間休日を110日から122日に拡大した。

変更後の採用募集で「年間休日122日、土日基本休み」を前面に出したところ、20〜24歳からの応募数が前年比3倍に増加。採用した25歳の若手が「週休2日があるのは建設業の中では珍しい。この会社を選んだ決め手だった」と話したという。

工期管理の見直し(早めの受注・早めの完工を徹底)と施工管理アプリ導入による書類時間の削減が、週休2日の実現を支えている。

若手育成プログラムの具体的な年間カレンダー

育成を「仕組み」として機能させるためには、年間スケジュールを設計することが重要です。思い立ったときに行動するのではなく、カレンダーに組み込んでおくことで抜け漏れがなくなります。

時期施策内容
入社前(3月)ロードマップ渡し入社日の前週に郵送またはメールで送付
4月1〜2週目安全教育集中週間安全衛生教育、現場ルール、道具の取り扱い
4月3〜4週目先輩に同行1日密着で現場の雰囲気をつかむ
5月〜6月OJT本格開始メンターとペアで作業
7月3ヶ月面談上司とのスキルチェック面談
10月半年面談自己評価と上司評価の擦り合わせ
11〜12月資格取得挑戦施工管理技士補の学科試験(例年1月申込み)
翌3月1年面談振り返りと2年目の目標設定

このカレンダーを人事担当者や上長が共有しておくことで、育成が属人化せず、組織として継続的に機能します。

採用と育成を一体で考える

若手育成の仕組みは、採用活動にも直結します。「入社後のサポートが充実している」という事実を採用サイトや面接で伝えることで、「育ててもらえる環境を求めている」若手の応募が増えます。

具体的には以下のコンテンツが採用サイトでの訴求に使えます。

  • 1年目のロードマップを掲載(「入社後の3ヶ月でここまで成長できます」)
  • メンター制度の概要と、実際のメンターのコメント
  • 資格取得支援の一覧(受験料負担・合格祝金・資格手当)
  • 入社2〜3年目の先輩社員が「入社前に知っておきたかったこと」を語るインタビュー

採用と育成を切り離して考えると、「採用したけど辞めてしまう」という悪循環から抜け出せません。育成の仕組みが整っていれば、それ自体が採用力になります。「この会社に入れば3年で一人前になれる」というメッセージは、経験のない若手にとって大きな安心感をもたらします。

若手が「安心して相談できる環境」をつくる

メンター制度よりもさらに根本的な問題として、「困ったときに誰に相談すればいいかわからない」という状況を解消することが重要です。

建設現場では指揮命令系統が明確で、現場所長への報告ラインは決まっています。しかし、「この仕事向いていないかも」「給料が低いと感じる」「人間関係でストレスがある」といった相談は、直属の上司にはしにくいものです。

解決策として有効なのは「相談の出口を複数作ること」です。メンターへの相談、人事担当者への相談、社長への直接相談(小規模企業の強み)、匿名の意見箱(物理またはGoogleフォーム)など、複数のルートを設けることで、若手が「行き場のない悩み」を抱え込むリスクを下げられます。

月1回、若手だけの昼食会を設ける企業もあります。同期や近い年次の先輩と気軽に話せる場を意図的に作ることで、現場での孤立感が和らぎます。

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若手採用・定着の実装事例と前段の採用設計は次の記事で具体的に解説しています。

参考情報

よくある質問

建設業の若手の離職率はどれくらいですか?
建設業の高卒新卒者の3年以内離職率は約42%、大卒でも約30%です。主な離職理由は長時間労働・休日の少なさ(35%)、人間関係(25%)、将来のキャリアが見えない(20%)です。
若手を辞めさせないための最も効果的な方法は何ですか?
入社1年目のロードマップを明示し、3ヶ月後・半年後・1年後の見通しを具体的に伝えることです。加えてメンター制度の導入と資格取得支援が定着率向上に直結します。
建設業でメンター制度はどう設計すればよいですか?
年齢が5〜10歳上の先輩をメンターに選定し、週1回15分の1on1ミーティングを実施します。メンター手当(月5,000〜10,000円)を支給し、直属の上司ではなく別の先輩を指名するのがポイントです。
資格取得支援は若手の定着にどのような効果がありますか?
1級施工管理技士を取れば月5万円(年間60万円)の手当が付くなど、頑張れば確実に報われることが見える化されます。受験料全額負担、講座費補助、合格祝金、資格手当のパッケージで支援しましょう。
建設業の若手育成にかかるコストと、辞めた場合のコストはどちらが大きいですか?
若手1人が辞めると採用コスト・育成コスト・機会損失を合わせて250〜460万円の損失が発生します。育成の仕組みに投資するほうが圧倒的にコスパが良いです。
10年間のキャリアマップはどのように作ればよいですか?
年次ごとに役割・想定年収・取得目標の資格を明示します。例えば1年目350万円→3年目420万円(2級取得)→5年目500万円(1級取得)→10年目650万円のように具体的な数字で示すことが大事です。

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