この記事の監修 山本 貴大 / 株式会社ローカルマーケティングパートナーズ 代表取締役

建設業×DXの専門メディア「ケンテク」編集長。中小建設会社のDX導入支援・マーケティング支援に従事。

「経審のP点をあと50点上げたい」。公共工事の入札ランクを1つ上げれば受注できる案件の幅が変わるだけに、P点の底上げは中小建設会社の経営課題として切実です。ただ、P点は5つの評価項目で構成されており、闇雲に取り組んでもコストと時間が無駄になりがちです。この記事では、項目ごとの「費用対効果が高い施策」と「決算前に押さえるべきタイムライン」を具体的にまとめました。経審の基本的な仕組みをすでに理解している方は、このまま読み進めてください。

P点の構成をおさらい — どこを上げるのが効率的か

経審の総合評定値(P点)は5つの評価項目で計算されます。

項目記号ウエイト評価内容
完成工事高X125%直近2年または3年の工事実績額
自己資本額等X215%自己資本額と利払前税引前償却前利益
経営状況分析Y20%財務諸表から算出する8指標
技術職員数・元請完工高Z25%有資格者数と元請実績
社会性等W15%各種制度の加入状況・社会貢献活動

計算式: P = 0.25X1 + 0.15X2 + 0.20Y + 0.25Z + 0.15W

ウエイトだけ見れば X1(25%)と Z(25%)が大きいのですが、完成工事高は短期間で急増させにくく、技術職員も一朝一夕には増えません。一方、W点は制度への加入手続きだけで加点が得られる項目が多く、中小建設会社にとっては「今期から動ける」施策が集中しています。

優先順位の考え方

短期(今期の経審まで): W点の加点項目を取りこぼさありません。決算書の数値最適化(Y点)を税理士と確認します。中長期(1〜3年): 社員の資格取得(Z点)と受注戦略の見直し(X1点)で底上げを図る。

W点(社会性等)で即効性のある加点を積み上げる

W点は経審の5項目の中で「最も手を打ちやすい」項目です。制度に加入する、認定を取得するといった手続きベースの施策が中心で、売上や利益のように景況に左右されません。

加点項目と費用の一覧

施策加点年間コスト目安手続き期間
建設業退職金共済(建退共)加入+15点労働者1人あたり月額310円数日
退職一時金制度の導入+15点掛金は企業規模による1〜2週間
法定外労働災害補償制度(上乗せ労災)+15点年間5〜15万円数日
防災協定の締結+20点0円1〜3ヶ月
CCUSの活用+15点事業者登録+技能者登録で数万円1〜2ヶ月
エコアクション21の認証取得+5〜30点審査費用10〜30万円/年3〜6ヶ月
えるぼし認定+5点取得費用は実質0円(社内制度整備のみ)3〜6ヶ月
くるみん認定+5点取得費用は実質0円(社内制度整備のみ)6ヶ月〜
CPD(継続教育)単位取得加点あり講習費用1〜3万円/人随時

建退共・上乗せ労災・CCUSの3つだけで+45点。手続きは短期間で完了し、費用も年間数万円から十数万円程度です。P点が50点上がれば入札ランクが1つ変わる自治体も多いため、費用対効果は高いといえます。

防災協定は費用ゼロで+20点

地元の市区町村と防災協定を結ぶだけでW点に+20点が加算されます。費用は一切かかりません。近年は豪雨・地震の頻発に伴い自治体側も民間建設会社との防災協定締結を歓迎しており、中小規模の会社でも締結実績が増えています。

具体的な手順としては、自治体の防災担当課(危機管理課や防災安全課など)に連絡を取り、災害発生時の応急工事への協力体制を協定書として締結します。建設業協会を通じて締結するパターンが多いですが、単独でも締結可能な自治体は少なくありません。

CCUSの活用が今後さらに重視される理由

建設キャリアアップシステム(CCUS)の活用による加点は、2023年の経審改正で拡充されました。技能者の能力評価(レベル判定)に応じた加点が導入され、レベル3以上の技能者が多い会社ほどW点で有利になります。

国土交通省は2023年度末時点でCCUS登録技能者数が約130万人と公表しており、今後も登録率の向上施策が続く見通しです。CCUSへの対応は経審対策に限らず、元請けからの評価や公共工事の入札要件としても重要度を増しています。CCUSの導入手順と活用のポイントは別記事で詳しく取り上げています。

Z点(技術力)を資格取得と採用で底上げする

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Z点はP点全体の25%を占め、X1と並んで最もウエイトが大きい項目です。短期間で大幅に伸ばすことは難しいものの、中長期で見たリターンが最も大きい投資先でもあります。

資格ごとの加点一覧

資格1人あたりの加点監理技術者として認定
1級施工管理技士5点
2級施工管理技士2点不可
1級建築士5点
技術士5点
RCCM5点
登録基幹技能者3点不可

ここで注意したいのは、同一人物が複数の資格を持っていてもカウントされるのは最も点数が高い資格1つだけという点です。1級施工管理技士と2級施工管理技士の両方を持つ社員がいても、加点は5点のみです。

もう1つ重要な条件があります。Z点に反映されるのは「審査基準日時点で常勤の技術職員」に限られること。非常勤や派遣社員はカウントされないため、資格者の採用と定着が経審対策に直結します。

社員の資格取得を促進する仕組み

「資格を取ってほしい」と呼びかけるだけでは、なかなか動いてもらえない現実があります。中小建設会社で成果を上げている企業は、次のような仕組みを導入しています。

  • 資格手当の支給(月額5,000〜30,000円の上乗せ)
  • 受験費用・講習費用の全額会社負担
  • 合格祝い金の支給(5〜20万円)
  • 試験前の学習時間を勤務時間として認定

人材定着のための評価制度設計の中に資格取得支援を組み込むことで、社員のモチベーション向上と経審対策を同時に進められます。

若手技術者の育成とZ点の関係

2級施工管理技士でも1人あたり2点の加点があるため、若手社員に早い段階で2級を取得させ、数年後に1級へステップアップさせるロードマップが有効です。建設業界全体で技術者の高齢化が進んでおり、国交省の調査では建設業就業者の約35%が55歳以上です。若手の資格取得は将来の技術者不足への備えにもなります。

Y点(経営状況分析)を財務改善で引き上げる

Y点は登録分析機関が財務諸表をもとに8つの指標で算出します。ウエイトは20%で、財務体質の強さが直接スコアに反映される項目です。

8指標と改善の方向性

指標何を見ているか改善のアプローチ
純支払利息比率借入コストの負担度合い借入金の圧縮、金利交渉
負債回転期間負債の返済スピード回収サイトの短縮、不良債権処理
総資本売上総利益率資産を使った稼ぐ力粗利率の改善、不要資産の処分
売上高経常利益率本業の収益性販管費の見直し
自己資本対固定資産比率固定資産の自己資本カバー率リースへの切り替え、遊休資産の売却
自己資本比率財務の安定性利益の内部留保、役員借入金の資本組入
営業キャッシュフロー本業からの資金創出力回収サイトの短縮、前受金の活用
利益剰余金過去の利益の蓄積毎期の黒字経営の継続

決算書の「作り方」で点数が変わる

Y点の改善は単なる経営改善だけでなく、決算書上の数値をどう表現するかという技術的な側面もあります。たとえば、以下のような対応は合法的にY点を押し上げる手法として知られています。

  • 決算日前に回収可能な売掛金を回収し、借入金の返済に充てる(純支払利息比率・負債回転期間の改善)
  • 不要な固定資産を決算前に売却する(自己資本対固定資産比率の改善)
  • 経営者からの借入金を「役員借入金」から「資本」に組み替える(自己資本比率の改善)
  • 減価償却方法を定額法に変更し、利益を平準化する

こうした決算対策は経審に詳しい税理士と決算の3ヶ月前から打ち合わせを始めるのが望ましいタイミングです。建設業向けの会計ソフトを導入しておけば、期中の段階で各指標のシミュレーションができるため、決算前に慌てる事態を避けられます。

経審に強い税理士の見分け方

すべての税理士が経審対策に精通しているわけではありません。建設業の経審に強い税理士を選ぶ基準として、次の点を確認してください。

  • 建設業クライアントが顧問先全体の2割以上を占めている
  • 「P点シミュレーション」を決算前に提供するサービスがある
  • 経営状況分析の8指標を具体的に説明できる
  • 行政書士と連携して経審申請までワンストップで対応できる

税理士報酬に月額1〜3万円の上乗せでP点が10〜20点上がるなら、入札機会の拡大による売上増で十分にリターンが見込めます。

X1点(完成工事高)を受注戦略で最大化する

X1点はP点の25%を占める最大ウエイト項目ですが、「工事をたくさん受注する」以外に打てる手がないと思われがちです。実は制度の仕組みを理解すれば、同じ受注額でもX1点を最大化する方法がいくつかあります。

2年平均と3年平均の選択

X1点は直近2年または3年の完成工事高の平均で算出され、どちらかを選択できます。大型工事が完了した翌期は2年平均のほうが有利になり、売上が落ちた期は3年平均で平準化できます。

具体例を見てみましょう。

年度完成工事高
3期前3億円
2期前2億円
直近期5億円
  • 2年平均: (2億+5億) / 2 = 3.5億円
  • 3年平均: (3億+2億+5億) / 3 = 3.3億円

この場合は2年平均を選ぶほうがX1点は高くなります。逆に直近期の売上が低かった場合は3年平均を選ぶことで下振れを抑えられます。

業種間振替(積み上げ)の活用

経審ではあまり知られていない制度として「業種間振替(積み上げ)」があります。特定の専門工事の完成工事高を、関連する一式工事や別の専門工事に振り替えてカウントできる仕組みです。

たとえば、とび・土工・コンクリート工事の実績を土木一式工事に振り替えることで、土木一式のX1点を引き上げることが可能です。自社が入札したい業種に合わせて振替を行えば、狙った業種のP点を効率的に上げられます。

ただし、振替元の業種の完成工事高は減るため、その業種でも経審を受けている場合はバランスを考慮する必要があります。行政書士に相談して、振替のシミュレーションを行ってから判断するのが安全です。

元請工事の比率を意識する

Z点の算出には「元請完成工事高」も含まれています。下請け比率が高い会社は、公共工事の小規模案件を元請けで受注する割合を意識的に高めることで、X1点とZ点の両方に好影響を与えられます。

X2点(自己資本額等)の改善ポイント

X2点はウエイト15%で、自己資本額と利払前税引前償却前利益(EBITDA)の2つで評価されます。Y点とも連動する部分が多く、財務体質の改善がそのまま反映される項目です。

自己資本額を増やす方法

自己資本を増やす手段は限られますが、現実的な選択肢としては以下が挙げられます。

  • 毎期の黒字経営による内部留保の積み上げ
  • 役員借入金の資本組入れ(DES: デット・エクイティ・スワップ)
  • 増資(オーナー経営者からの追加出資)

DESは役員借入金を資本に振り替える手法で、会社法上の手続きが必要ですが、自己資本比率とX2点を同時に改善できます。税務上の注意点があるため、税理士と相談のうえ進めてください。

EBITDAの改善

利払前税引前償却前利益は、営業利益+減価償却費で近似できます。減価償却方法を定率法から定額法に変更すると、取得初期の償却額が減り営業利益が増えるため、結果としてEBITDAの数値が改善する場合があります。ただし、Y点のほかの指標に影響を与える可能性があるため、8指標全体でのシミュレーションが前提です。

決算前の経審対策チェックリスト

P点を最大化するには、決算日から逆算した準備が欠かせません。以下のチェックリストを決算3ヶ月前から使ってください。

1

決算3ヶ月前: 現状のP点を確認

前期の経審結果通知書をもとに、各項目のスコアを確認。税理士・行政書士と改善余地のある項目を洗い出す。

2

決算2ヶ月前: W点の加入漏れをチェック

建退共・上乗せ労災・CCUS・防災協定など、まだ対応していない加点項目がないか確認し、手続きを開始。

3

決算1ヶ月前: 財務数値の最適化を協議

売掛金の回収、不要資産の処分、借入金の返済など、Y点に影響する決算対策を税理士と実施。X1の2年/3年平均の有利選択もシミュレーション。

4

決算日: 最適な決算書を確定

減価償却方法の確認、業種間振替の適用判断を含め、経審を意識した決算書を作成。

5

決算後4ヶ月以内: 決算変更届を提出

経営状況分析の申請とあわせて、結果通知書の有効期間が切れる前に経審申請を完了させる。

従業員規模別の優先施策

会社の規模によって「効く施策」は異なります。限られた経営資源のなかで優先順位をつけるための目安を示します。

従業員10人以下の会社

W点の取りこぼし解消が最優先です。建退共・上乗せ労災・防災協定の3つで+50点の上積みが狙えます。技術者が少ない分、1人でも1級施工管理技士を採用・育成できればZ点への影響が大きく出ます。

従業員11〜30人の会社

W点の基本項目はおおむね押さえている会社が多いため、エコアクション21やCCUS活用などの上乗せ項目に取り組む段階です。技術者の資格取得支援制度を整備し、2級から1級へのステップアップを計画的に進めます。Y点の改善も、売上規模が大きくなるほど効果が出やすい項目です。

従業員31人以上の会社

項目ごとの「取りこぼし」は少ないはずなので、X1点の受注戦略(業種間振替、元請比率の引き上げ)とZ点の技術者採用がメインの施策になります。えるぼし・くるみん認定による加点も、人事制度が整っている会社であれば取得のハードルは下がります。

経審対策でよくある失敗と対処法

点数アップを目指して対策に取り組む会社が陥りがちなパターンを3つ紹介します。

W点の加入手続きが決算後になる

W点の加入・認定は「審査基準日(決算日)時点」で有効であることが条件です。決算後に建退共に加入しても、その期の経審には反映されません。決算3ヶ月前から手続きを始めるのが鉄則です。

技術者の退職でZ点が急落する

1級施工管理技士が1人退職するだけでZ点が5点下がります。P点への影響はウエイト25%を掛けて1.25点分ですが、入札ランクのボーダーラインにいる会社には致命的なダメージとなり得ます。人材定着の施策を経審対策の一環として位置づけることが重要です。

業種間振替で本業のP点を下げてしまう

振替元の業種のX1点が下がることを見落とすケースがあります。複数業種で経審を受けている場合は、業種ごとのP点を一覧で比較し、どの業種を優先するかを明確にしたうえで振替を判断してください。

2024年以降の改正で注目すべき変更点

経審の審査基準は定期的に見直されます。直近の改正で中小建設会社に影響が大きいのは以下の2点です。

CCUS関連の加点拡充が進んでおり、技能者のレベル判定に応じた段階的な加点が導入されました。レベル3以上の技能者が多い会社は、W点で明確なアドバンテージを得られる仕組みです。国交省はCCUS登録率のさらなる引き上げを目指しており、今後の経審改正でもCCUS関連の加点が強化される可能性があります。

ワーク・ライフ・バランスに関する認定(えるぼし、くるみん、ユースエール等)への加点も追加されています。これらの認定は取得費用がほぼかからない一方で、社内制度の整備に時間がかかるため、早めに着手しておくことで将来の経審に備えられます。

経審P点シミュレーション — 施策を数字で評価する

施策の優先順位を決める際は、各施策がP点に与える影響を数値で把握すると意思決定がしやすくなります。以下の計算式で施策ごとの寄与度を概算できます。

P点 = 0.25 × X1 + 0.15 × X2 + 0.20 × Y + 0.25 × Z + 0.15 × W

各ウエイトを使った施策別の効果試算例(現在のP点が700点の中小建設会社の場合):

防災協定締結(W点+20点)→ P点への寄与: 20 × 0.15 = +3.0点 建退共加入(W点+15点)→ P点への寄与: 15 × 0.15 = +2.25点 1級技士1名採用(Z点+5点)→ P点への寄与: 5 × 0.25 = +1.25点 完成工事高を5%増加(X1点+数点)→ 変動幅は現在の売上規模による

こうした試算から「防災協定締結はすぐに着手できてP点+3点の効果」という判断基準が得られます。認定支援機関や経審申請を代行する行政書士に試算を依頼するのも有効で、投資対効果の高い施策に集中できます。点数アップの成果を受注につなげるには、建設業の入札情報を検索する習慣をあわせて持ち、自社のP点・等級で狙える案件の発注状況を日常的に把握しておくことをおすすめします。

P点を上げた後の実践として、都道府県別の入札案件一覧で自社の営業エリアの案件を確認しましょう。

参考情報

よくある質問

経審の点数を最も短期間で上げるにはどの項目に注力すべきですか?
W点(社会性等)が最も即効性があります。建退共加入(+15点)、上乗せ労災加入(+15点)、防災協定締結(+20点)など、制度への加入手続きだけで加点が得られ、数日から数ヶ月で対応可能です。
防災協定は中小建設会社でも締結できますか?
締結できます。建設業協会経由で自治体と協定を結ぶパターンが一般的ですが、単独で締結可能な自治体も少なくありません。費用はかからず、W点に+20点の加点があります。
業種間振替(積み上げ)とは何ですか?
特定の専門工事の完成工事高を関連する一式工事や別の専門工事に振り替えてカウントできる制度です。入札したい業種のX1点を効率的に引き上げるために活用されますが、振替元の業種の点数は下がるため注意が必要です。
経審対策はいつから始めるべきですか?
決算日の3ヶ月前から準備を始めるのが理想的です。W点の加入手続き、Y点に影響する財務対策、X1の2年/3年平均の有利選択シミュレーションなどを決算前に完了させる必要があります。
経審のP点が何点あれば公共工事の入札で有利になりますか?
自治体によって基準は異なりますが、P点700点を超えるとBランク以上の入札に参加できる自治体が多く、受注できる案件の幅が広がります。平均的なP点は700点前後とされています。
1級施工管理技士を1人採用するとP点はどのくらい上がりますか?
Z点に5点の加点があり、ウエイト25%を掛けるとP点への寄与は約1.25点です。小規模な会社ほど1人あたりの影響が大きく、入札ランクのボーダーライン付近では大きな差になります。

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