この記事の監修 山本 貴大 / ケンテク編集長

150社以上のマーケティング/コンサルティング支援実績。認定支援機関と連携した補助金計画書の作成支援も手がける。

「省エネ基準が義務になったらしいが、うちの現場で何が変わるのか」。2025年4月、改正建築物省エネ法が施行され、原則として全ての新築建築物に省エネ基準への適合が義務付けられた。これまで適合義務の対象は床面積300平方メートル以上の非住宅に限られていたが、住宅を含む全新築に範囲が拡大された点が大きな転換だ。

建設業にとってこの改正は、設計段階から施工・完了検査まで実務フローの見直しを迫るものになる。とくに従業員30人以下の中小工務店では「省エネ計算の経験がない」「断熱材の選定基準がわからない」といった声が少なくない。しかし裏を返せば、省エネ施工に対応できる体制を早期に整えた会社は、対応が遅れている競合に対して明確な優位性を持つことになる。この記事では改正の全体像を整理し、中小建設会社が押さえるべき実務対応と活用できる補助金を解説する。

2025年4月施行 — 何が義務になったのか

適合義務の対象範囲

改正前と改正後で対象範囲は次のように変わった。

建物区分改正前改正後(2025年4月〜)
非住宅 300平方メートル以上適合義務適合義務(変更なし)
非住宅 300平方メートル未満届出義務適合義務に格上げ
住宅(全規模)説明義務のみ適合義務に格上げ

これまで「施主に説明すればよかった」住宅分野でも、基準を満たさなければ建築確認が下りなくなった。戸建住宅を手がける工務店や住宅メーカーへの影響は特に大きい。

国土交通省の推計では、改正前の時点で新築住宅の約9割がすでに省エネ基準を満たしていたとされる。ただしこれは全国平均の数値であり、寒冷地(1〜3地域)では断熱仕様の見直しが必要なケースが相当数残っている。また「基準を満たしていた」といっても説明義務どまりで計算書類を作成していなかった住宅が多く、確認申請に添付する省エネ適合判定通知書を取得する実務フローが新たに発生する点には注意が必要だ。

増改築についても10平方メートル超の増築では原則として適合義務が生じる。たとえば既存の事務所に会議室を増設するような工事でも、増築部分が省エネ基準を満たさなければ確認が下りない。ただし簡易な増改築では仕様基準(断熱材の種類と厚さを一覧表で確認する方法)による判定が認められており、計算プログラムを使わなくても適合を示せる場合がある。

省エネ基準の2つの指標

省エネ基準への適合は、以下の2つの指標で判定される。

外皮性能(UA値)は、建物の断熱性能を数値化したもので、値が小さいほど断熱性が高い。地域ごとに基準値が定められており、たとえば東京(6地域)ではUA値0.87以下が求められる。

一次エネルギー消費量(BEI)は、建物のエネルギー消費効率を示す指標で、基準建築物と比較した比率で評価される。BEI=1.0が基準値で、これを下回れば省エネ性能が高いと判定される。非住宅の用途別BEI基準値は工場0.75、事務所0.8、病院0.85と用途によって異なる。

住宅の場合はUA値とBEIの両方を満たす必要がある。たとえば断熱性能が優れていてUA値をクリアしていても、採用した給湯器やエアコンの効率が低くBEIが基準を超えていれば適合にはならない。逆に高効率設備でBEIを抑えても、断熱性能が不足していればやはり不適合になる。この「外皮」と「設備」の両面から性能を確保する考え方が省エネ基準の基本構造だ。

日本の温室効果ガス排出量のうち建築物関連が約1/3を占めており、2050年カーボンニュートラル達成に向けて建物の省エネ性能引き上げは国の重点施策に位置付けられている。

建設会社の実務に何が変わるか

設計段階の変化

従来は施主に「省エネ基準に適合していませんが、よろしいですか」と説明して同意を得れば着工できた。今後はそもそも基準を満たさない設計では建築確認申請が通らない。

設計事務所と連携して省エネ計算を行い、確認申請書類に省エネ適合判定の結果を添付する必要がある。自社設計の場合は、省エネ計算ソフト(Webプログラムや民間ツール)の操作スキルが求められる。

省エネ計算には「標準計算ルート」と「仕様基準ルート」の2つがある。標準計算ルートは計算プログラムにUA値やBEIを入力して数値で適合を証明する方法で、設計の自由度が高い。一方の仕様基準ルートは、断熱材の種類・厚さ・窓の仕様が一覧表の基準を満たしていれば適合とみなす簡易方式だ。小規模住宅では仕様基準ルートのほうが実務負担は小さいが、コスト最適化を図りたい場合は標準計算ルートで設計余地を確保するのが有利になる。どちらのルートを使うかは物件の規模や設計方針に応じて選択できる。

施工段階の変化

断熱材の施工品質が以前にも増して重要になる。いくら設計上の断熱性能が高くても、現場で断熱材に隙間やずれがあれば性能は発揮されない。

施工管理のポイントは次の3つだ。

  • 断熱材の厚み・施工位置が設計図どおりか(現場写真で記録)
  • 気密テープや防湿シートの連続性が確保されているか
  • サッシ周りの断熱欠損がないか

完了検査で断熱施工の不備が指摘されると手戻りが発生する。断熱工事のやり直しは内装仕上げをはがす必要があるため、工期・コストの両面で大きな打撃になる。ある中堅工務店では、断熱施工後に自主検査を挟むフローに切り替えたことで完了検査時の指摘がほぼゼロになったという。施工管理アプリで断熱施工の写真管理を行い、工程ごとの品質記録を残しておくと検査対応がスムーズになる。

完了検査の変化

省エネ適合義務化に伴い、完了検査でも省エネ基準への適合が確認対象に加わった。これまでの構造・防火に加えて、断熱性能とエネルギー消費性能が検査項目に含まれる。

具体的には、使用した断熱材の製品名・厚さ・施工範囲が設計図書と一致しているか、窓サッシの仕様(熱貫流率)が申請どおりか、設備機器の型番が省エネ計算に用いたものと同一かといった点が確認される。現場では施工中の断熱工事の写真記録が検査時のエビデンスとして重要になるため、工程写真を日付・場所ごとに整理して保管しておく運用体制が求められる。

中小建設会社がとるべき4つの実務対応

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対応1: 省エネ計算の体制を整える

自社で省エネ計算ができる体制を持つか、外部の計算代行サービスを利用するかを決める必要がある。

自社対応の場合は、国土交通省が提供する「エネルギー消費性能計算プログラム(Webプログラム)」を無料で使える。ただし操作には一定の知識が必要なため、社内で担当者を決めて研修を受けさせるのが現実的だ。

外注する場合は、1件あたり数万〜十数万円の計算代行費が発生する。物件数が多い場合は内製化したほうがコスト効率は良い。年間の新築着工棟数が10棟を超えるなら、担当者1名を養成して内製化するほうが外注費の累計を下回る計算になるケースが多い。研修期間は2〜3ヶ月程度を見込んでおくと実務に入りやすい。住宅性能評価員の資格取得も併せて検討すると、対外的な信頼度が高まる。

対応2: 断熱施工のスキルを底上げする

省エネ基準をクリアするための施工品質を確保するには、職人のスキルアップが欠かせない。断熱材メーカーや建材メーカーが主催する施工研修は無料〜低価格で受講できるものが多い。

特に注意が必要なのは、充填断熱工法における気流止めの施工だ。壁内に断熱材を充填しても、気流止めが不十分だと壁体内で空気が流れ、断熱性能が大幅に低下する。実測では、気流止め未施工の壁は設計値の6〜7割程度しか断熱性能を発揮できないという報告もある。床と壁の取り合い部分、間仕切り壁の上下端、配管貫通部といった箇所は施工不良が起きやすいため、チェックリストを用意して工程ごとに確認する仕組みを作っておきたい。

対応3: コスト増を適正に価格転嫁する

省エネ基準適合による追加コストは、建設費の約1.3〜4.0%とされている。この上昇分を施主に適切に説明し、見積りに反映させることが重要だ。

「義務になったので仕方ない」ではなく、「光熱費の削減で長期的に回収できる」「断熱等級が高い住宅は資産価値が維持される」といったメリットを伝えることで、施主の納得感を高められる。国土交通省の試算では、省エネ基準に適合した住宅は年間の冷暖房費が未適合住宅と比べて約2.5万〜5万円程度低くなり、追加コストは17〜35年程度で回収できるとされている。

見積書では「省エネ基準適合費」のような形で費目を明示し、何にいくらかかるのかを透明にすることが施主との信頼関係を築くうえで効果的だ。漠然と総額が上がった印象を与えるよりも、断熱材のグレードアップ費用、高性能窓への変更費用、省エネ計算費用といった内訳を示すほうが合意を得やすい。

改正建設業法でも原価割れ受注の禁止が盛り込まれており、適正な価格転嫁は法的にも後押しされている。

対応4: 省エネ関連の補助金を活用する

省エネ性能の高い建築物には、複数の補助金が用意されている。

補助金名概要主な対象
省エネ補助金高効率設備導入の費用補助事業用建築物
ZEH支援事業ネット・ゼロ・エネルギー・ハウスの普及促進戸建住宅
子育てエコホーム支援事業子育て世帯の省エネ住宅取得支援新築住宅
IT導入補助金省エネ計算ソフト等のIT導入中小企業

施主に対して「この補助金が使えます」と提案できる建設会社は受注力が上がる。補助金の申請には事前に事業者登録が必要な制度も多いため、公募開始前に登録を済ませておくことが受注機会を逃さないポイントになる。たとえばZEH支援事業ではZEHビルダー登録、子育てエコホーム支援事業では事業者登録がそれぞれ前提条件だ。補助金情報を常にアップデートし、営業ツールとして活用してほしい。ケンテクの補助金一覧ページでも建設業で使える制度を網羅的に紹介している。

今後のスケジュール — 2030年に向けた基準引き上げ

今回の義務化はゴールではなく、始まりに過ぎない。政府は2030年に向けて以下の方針を打ち出している。

  • 2030年までに新築戸建住宅の6割に太陽光パネル設置を目指す
  • 省エネ基準の水準自体を段階的に引き上げる(ZEH水準への引き上げを検討)
  • 既存建築物の省エネ改修に対する規制・支援の強化

建設会社にとっては、「今の基準ギリギリ」を狙うのではなく、将来の基準引き上げを見据えてZEH水準以上の施工技術を身につけておくことが競争力の源泉になる。ZEH水準とは現行の省エネ基準よりさらに高い断熱性能(6地域でUA値0.6以下)と、基準一次エネルギー消費量から20%以上の削減を求める水準だ。この水準を標準仕様として提案できる工務店は、施主からの信頼を得やすく、差別化のポイントになる。

カーボンニュートラルへの取り組みは、入札時の加点や元請けからの評価向上にもつながる。公共工事の総合評価落札方式では、環境配慮への取り組みが加点項目に設定されるケースが増えており、省エネ施工の実績は自社の技術力を証明する材料になる。民間工事においても、大手デベロッパーが協力会社の選定基準にZEH対応力を盛り込む動きが広がっている。省エネ基準への対応を「コスト」ではなく「投資」として捉え、早い段階から社内体制を整えることが中長期の経営安定につながる。

よくある質問

省エネ基準の義務化はいつから始まりましたか?
2025年4月に施行されました。改正建築物省エネ法により、原則として全ての新築建築物(住宅を含む)に省エネ基準への適合が義務付けられています。それ以前は床面積300平方メートル以上の非住宅のみが対象でした。
省エネ基準を満たさないとどうなりますか?
省エネ基準に適合しない設計では建築確認申請が通りません。着工自体ができなくなります。また完了検査でも省エネ性能が確認対象に含まれるため、施工段階での品質確保も求められます。
省エネ基準適合による建設コストの増加はどのくらいですか?
建設費の約1.3〜4.0%の増加とされています。ただし断熱性能向上による光熱費削減効果があり、17〜35年程度で追加コストを回収できる試算が出ています。ZEH支援事業等の補助金を活用すれば実質的な負担はさらに軽減されます。
中小の建設会社が省エネ計算をするにはどうすればよいですか?
国土交通省が提供する「エネルギー消費性能計算プログラム(Webプログラム)」を無料で利用できます。社内で担当者を決めて操作研修を受けるか、1件数万〜十数万円の計算代行サービスを外注する方法があります。物件数が多い場合は内製化のほうがコスト効率が良いです。

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