この記事の監修 山本 貴大 / 株式会社ローカルマーケティングパートナーズ 代表取締役

建設業×DXの専門メディア「ケンテク」編集長。中小建設会社のDX導入支援・マーケティング支援に従事。

「忙しいのに利益が残らない」。中小建設会社の経営者から、この言葉を聞くことが年々増えています。売上は伸びているのに、手元にキャッシュが残らない。決算書を見て初めて赤字工事があったことに気づく。建設業の利益率改善は、経営の根幹に関わるテーマです。

国土交通省の「建設業の経営分析」(2024年度)によると、建設業の平均粗利率は約25%、営業利益率は約4%とされています。この数字を下回っている会社は、構造的な問題を抱えている可能性が高い。とりわけ建設業の倒産が過去10年最多を記録するなか、利益率の改善は生き残りの条件そのものです。

建設業の利益率はどのくらいが「普通」なのか — 工種別・規模別の目安

「建設業の利益率は25%」とよく言われますが、これは粗利率(売上総利益率)の話です。営業利益率(本業の儲け)はそれよりはるかに低い。工種や企業規模によっても大きく異なります。

利益率の種類

利益率計算式建設業の目安
粗利率(売上総利益率)(売上 − 工事原価)÷ 売上20〜30%
営業利益率営業利益 ÷ 売上3〜5%
経常利益率経常利益 ÷ 売上3〜5%

工種別の粗利率目安

すべての建設業を「25%」で一括りにするのは乱暴です。工種によって原価構造が異なるため、目標とすべき粗利率も変わります。

工種粗利率の目安特徴
土木工事20〜25%資材費比率が高い。重機コストも大きい
建築工事(元請け)25〜30%管理・設計要素が含まれるため粗利は高め
建築工事(下請け)15〜22%労務費中心。元請けからの単価圧力を受けやすい
設備工事(電気・管工事)25〜35%専門性が高い分、単価を維持しやすい
内装工事20〜28%材料費と労務費のバランスが工事内容で大きく変動
リフォーム30〜40%少額多件。粗利率は高いが1件あたりの利益額は小さい

自社の工種と照らし合わせて、「自分の会社の粗利率は平均に届いているか」をまず確認してください。平均を下回っている場合、以下のどこかに問題があるはずです。

利益率が低い中小建設会社に共通する5つの構造的原因

利益率の低さには必ず原因があります。中小建設会社に多いパターンを5つ挙げます。

原因1: 売上至上主義 — 赤字でも受注する習慣

「とにかく仕事を切らさない」が最優先になっている会社では、利益率を度外視した安値受注が常態化します。年商は伸びているのに利益が出ない典型的なパターンです。

改正建設業法では原価割れ受注が法律で禁止されました。「安くても受ける」という選択肢自体が、今後は使えなくなります。

原因2: どんぶり勘定の原価管理

工事ごとの原価を正確に把握していない会社は驚くほど多い。「全体として利益が出ていればいい」という考え方は、赤字工事の存在を見えなくします。年度末の決算で初めて「この現場は赤字だった」と判明するのでは手遅れです。

原因3: 下請構造と元請依存

売上の7〜8割が特定の元請け1社に依存している場合、価格交渉力はほぼゼロです。「言われた金額で受けるしかない」状態からの脱却が、利益率改善の根本策になります。

原因4: 資材高騰・人件費上昇の転嫁遅れ

鉄骨、コンクリート、木材の価格は過去3年で10〜20%上昇しました。職人の日当も年々上がっています。このコスト増を請負金額に転嫁できていなければ、利益は自動的に削られます。価格転嫁の具体的な交渉方法は別の記事で詳しく解説しています。

原因5: 固定費の放置

事務所の家賃、リース料、車両費、通信費。「毎月かかるもの」として見直しの対象にされない固定費が、利益を静かに削り続けているケースがあります。年間で積み上げると無視できない金額になることも。

利益率改善の第一歩 — 工事ごとの「見える化」から始める

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利益率を改善するには、「どの工事でいくら儲かっているか」を見える化することが出発点です。感覚ではなく数字で現状を把握しなければ、打ち手は決まりません。

Excelでもいいから工事台帳をつくる

最低限必要なのは、工事ごとに以下の4項目を記録すること。

  • 受注金額
  • 材料費(実績)
  • 労務費(自社職人の人工数 × 日当 + 法定福利費)
  • 外注費(協力会社への支払い)

この4つがあれば、工事ごとの粗利率が算出できます。「あの現場は儲かった」「あの現場は苦しかった」を数字で裏づけられるようになるだけで、経営判断の精度は大きく変わります。まずは直近半年の完工案件から入力を始めて、粗利率の高い工事と低い工事の傾向をつかむのが第一歩です。

見るべき3つの数字

月次で確認すべき指標は3つに絞ります。

  1. 工事別粗利率 — 工事ごとに25%を超えているか
  2. 労務費比率 — 売上に対する労務費が30%を超えていないか
  3. 外注費比率 — 外注が多すぎないか(50%超は要注意)

この3つを毎月チェックするだけで、問題のある現場を早期に発見できます。

Excelに限界を感じたら

工事台帳をExcelで管理している会社は多いですが、現場が10件を超えるとリアルタイムの把握が難しくなります。原価管理ソフトを導入すれば、工事別の原価をリアルタイムで集計し、粗利率の推移をグラフで確認できます。

原価を下げる — 材料費・外注費・労務費の見直し実務

見える化で問題工事が特定できたら、原価の削減に取り組みます。ここで重要なのは、「安くする」のではなく「無駄をなくす」という発想です。品質を落として目先のコストを下げれば、手直し工事の発生や施主からの信頼低下で中長期的にはマイナスになります。費目ごとに、品質を維持しながら原価を適正化するアプローチを具体的に解説します。

材料費の削減

  • 相見積もりの徹底: 主要資材は最低3社から見積もりをとる。1社依存は単価交渉力を失う
  • まとめ発注による単価低減: 複数現場の資材を集約して発注量を増やす
  • 過剰発注の抑制: 「余裕を見て多めに発注する」習慣が廃材コストと保管コストを生む。積算精度の向上が直接的な削減につながる
  • 代替材の検討: 設計上の制約がなければ、同等品質でコストの低い資材を提案する

外注費の適正化

  • 外注比率の見直し: 外注費が売上の50%を超えている場合、内製化できる工程がないか検討する
  • 優良業者との長期関係: 単価を叩くのではなく、安定した発注量を保証する代わりに単価を維持する。品質と安定供給のバランスが大切
  • 発注タイミングの早期化: 繁忙期の駆け込み発注は割高になる。工程計画に基づいて早めに手配する

労務費の効率化

  • 工程管理の精度向上: 工程の無駄(手待ち時間、移動時間)を減らすことで、同じ人工数でこなせる工事量が増える。ある内装工事会社では、作業員の手待ち時間を計測したところ、1日あたり平均45分のロスが見つかり、工程表の見直しだけで月間約20人工分の効率化につながった
  • 施工管理アプリによる間接業務の削減: 写真整理・日報作成・書類作成にかかる時間をDXで圧縮する。国交省の調査では、ICTツール導入企業の約6割が「管理業務時間が20%以上削減された」と回答している
  • 多能工の育成: 1人が複数の作業をこなせるようになれば、少人数での施工が可能に。ただし技能のバランスが偏ると品質低下につながるため、OJTと座学を組み合わせた計画的な育成プログラムが必要になる

単価を上げる — 法改正を追い風にした価格転嫁と付加価値戦略

原価削減には限界があります。利益率を根本的に改善するには「単価を上げる」側面も不可欠です。

法改正が中小の味方になっている

2025年は建設業の価格交渉にとって転機の年です。改正建設業法による原価割れ禁止標準労務費制度の導入、取引適正化推進法の施行。これらの制度変更は、「適正な価格で受注する」ことを法律が後押ししている状態です。

価格転嫁の具体的な交渉術では、根拠資料の作り方から切り出しフレーズまで解説しています。「値上げしたいが言い出せない」という段階を越えるために、ぜひ参照してください。

付加価値を高めて選ばれる会社になる

価格競争から脱出するには、「この会社に頼む理由」を作ることが必要です。

  • アフター対応の充実: 引き渡し後の定期点検やメンテナンスサービスをパッケージ化する
  • 提案力の強化: 発注者の要望に対して代替案やVE提案を出せる技術力
  • 工期遵守の実績: 工期を守れる施工管理体制は、発注者にとって最大の安心材料。過去の完工実績を一覧にして提案書に添付するだけで、新規発注者からの信頼度は格段に上がる
  • BIMや3Dモデルの活用: 施工前の見える化で発注者の意思決定を支援する。BIM導入ガイドも参照

月次で利益率をモニタリングする仕組みをつくる

利益率の改善は一度やって終わりではなく、継続的にモニタリングする仕組みが必要です。

月次ミーティング — 15分で完了するアジェンダ

利益率を追うための月次ミーティングは、以下のアジェンダで15分あれば十分です。

議題確認内容判断基準
今月の粗利率全社の粗利率が25%以上か23%未満なら要因を特定
赤字工事の有無粗利率がマイナスの工事がないかあれば即対策を協議
労務費比率売上に対して30%以内か超過していれば工程を見直し
次月の受注予定受注予定工事の見積粗利率20%未満の案件は受注判断を再検討

キャッシュフローとの連動

利益が出ていてもキャッシュフローが回らないケースは建設業で頻繁に起こります。入金サイトが長い、着工前の資材立替が大きいなど、利益とキャッシュのズレが資金ショートの原因になります。

典型的な例として、粗利率30%の優良案件でも、着工から完工後の入金まで6ヶ月かかる場合、その間に発生する材料費・外注費・人件費の立替が数百万円に達します。手元資金が薄い中小企業では、利益率の高い案件を受注したことがかえって資金繰りを圧迫する皮肉な状況も起こりえます。利益率とキャッシュフローは必ずセットで管理してください。

利益率改善に使える補助金・支援制度

利益率の改善に必要な投資(原価管理ソフトの導入、業務効率化ツールの整備など)には、補助金を活用できます。

補助金用途補助率補助上限
IT導入補助金原価管理ソフト・施工管理アプリの導入1/2450万円
ものづくり補助金施工効率化のための設備・システム開発1/2〜2/3750万〜1,250万円
事業再構築補助金利益率の低い事業からの転換1/2〜2/31,500万円〜
早期経営改善計画策定支援専門家による経営改善計画の策定2/325万円

原価管理ソフトの導入はIT導入補助金の対象です。申請は交付決定前の契約・購入が認められないため、早めのスケジュール確認が必須です。建設業向け原価管理ソフト比較で主要製品の機能と補助金対応を確認できます。

参考情報

よくある質問

建設業の利益率の目安はどのくらいですか?
建設業の平均粗利率は約25%、営業利益率は約3〜5%が目安です。ただし工種により大きく異なります。設備工事(電気・管工事)は粗利率25〜35%と高め、建築下請けは15〜22%と低めの傾向があります。自社の工種の平均値と比較して判断してください。
建設業の利益率が低い主な原因は何ですか?
主な原因は5つあります。(1)赤字でも受注する売上至上主義、(2)工事ごとの原価を把握していないどんぶり勘定、(3)特定元請けへの依存による価格交渉力の欠如、(4)資材高騰・人件費上昇の価格転嫁遅れ、(5)固定費の見直し不足。特に(2)の原価把握ができていないケースが中小建設会社で最も多い構造的原因です。
利益率改善はどこから手をつけるべきですか?
まず工事ごとの粗利率を見える化するところから始めてください。Excelでも構いませんので、受注金額・材料費・労務費・外注費を工事ごとに記録します。この4項目がわかれば工事別の粗利率が計算でき、赤字工事の特定と対策が可能になります。見える化→原価削減→単価アップ→仕組み化の順番が効果的です。
原価管理ソフトは利益率改善に効果がありますか?
はい、工事別の原価をリアルタイムで把握できるようになるため、赤字工事の早期発見・対策が可能になります。また蓄積されたデータは価格交渉の根拠資料としても活用できます。IT導入補助金(補助率1/2、上限450万円)の対象になる製品も多く、導入コストを抑えられます。
2025年の法改正は利益率改善にどう影響しますか?
改正建設業法による原価割れ受注の禁止と標準労務費制度の導入は、中小建設会社にとって追い風です。法律で適正価格での受注が求められるようになったため、「安値受注しない」「価格交渉する」ことの正当性が制度的に裏づけられました。この法改正を交渉材料として活用することで、単価アップによる利益率改善が進めやすくなっています。

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