この記事の監修 山本 貴大 / ケンテク編集長

150社以上のマーケティング/コンサルティング支援実績。認定支援機関と連携した補助金計画書の作成支援も手がける。

鉄鋼、セメント、木材、燃料 — 建設業で使うあらゆる資材の価格がここ数年上がり続けています。受注は取れている。現場は回っている。それでも利益が残らない。中小建設会社の経営者にとって、建設業の資材高騰は「じわじわ効いてくる慢性的な痛み」になっています。

帝国データバンクの調査によると、2025年に発生した建設業の倒産は前年比6.9%増の2,021件。2013年以来12年ぶりに2,000件を超えました。倒産の12%は物価高が直接の要因です。「なんとかなるだろう」と様子を見ている間に、利益がゼロに近づく — そんなリスクは他人事ではありません。

この記事では、建設業の資材高騰がなぜ続いているのか、そして中小企業が取るべき具体的な対策を5つに整理して解説します。

建設資材はなぜ高騰し続けているのか

資材価格の上昇はここ数年の一時的な現象ではなく、構造的な要因が重なった結果です。

主要資材の価格動向

鉄鋼はウクライナ情勢以降の国際市況に引きずられ、2022年に急騰した水準から高止まりしています。セメントは電力コスト・物流コストの上昇を受けて値上げが続き、生コンクリートの単価にも反映。木材はウッドショック後にいったん落ち着いたものの、円安の進行と国内供給体制の脆弱さから再び上昇基調に転じています。

燃料費も建設コストを押し上げる要因です。ダンプ・重機の軽油代はもちろん、合材プラントのエネルギーコストが舗装工事の原価に直結します。原油価格は中東情勢やOPECの減産方針に左右され、先が読みにくい状況が続いています。

高騰の構造的要因

資材高騰を生んでいるのは複数の要因の重なりです。

  • 円安の長期化 — 輸入資材の調達コストが為替で20〜30%上振れする構造
  • 世界的な建設需要 — 北米・東南アジアのインフラ投資拡大で国際市況が高止まり
  • 国内の物流コスト上昇 — 2024年問題(ドライバー残業規制)による運賃上昇
  • エネルギー価格 — 電力・ガス・燃料の価格上昇がセメント・鉄鋼の製造コストに転嫁

いずれも短期間で解消される性質の要因ではありません。「いつか下がるだろう」という期待は経営判断としてリスクが高い。現在の価格水準を前提にした経営体制への切り替えが必要です。

資材高騰が中小建設会社に与えるインパクト

利益率の圧迫 — 「受注は増えても利益が残らない」

建設投資額自体は増加傾向にあり、受注に困っていない会社も多い。しかし資材費・労務費・燃料費がすべて上がった結果、「売上は伸びているのに利益が減っている」という逆転現象が起きています。

特に受注時の見積りから着工・完工までにタイムラグがある建設業では、見積り時点の資材価格と実際の調達価格がずれるリスクが常にあります。工期が長い工事ほどこのリスクは大きく、完工時には利益がほとんど残っていなかった — というケースは珍しくありません。

利益率改善の具体策では、粗利率を工種別に管理して「どこで利益が漏れているか」を把握する方法を解説しています。

倒産件数の増加

帝国データバンクの調査によれば、2025年の建設業倒産は2,021件(前年比+6.9%)で4年連続の増加です。上半期だけで986件と過去10年で最多ペースでした。

倒産の内訳を見ると、物価高起因が12.0%(118件)、人手不足起因が5.5%(54件)、後継者難が7.0%(69件)。職人不足・高齢化・資材高の「三重苦」が中小建設会社を追い詰めている構図です。

倒産した企業の多くは「赤字工事を断れなかった」「価格転嫁を交渉できなかった」という共通点を持っています。「仕事があるから大丈夫」と考えるのは危険です。利益を確保できる受注かどうかの判断が、会社を守る最初の防衛線になります。

改正建設業法が変えた「価格転嫁の土俵」

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2025年12月に全面施行された改正建設業法は、下請けの立場にある中小建設会社にとって追い風になる制度変更を複数含んでいます。資材高騰対策を考えるうえで、この法改正を活用しない手はありません。

スライド条項 — 資材変動を契約に反映する仕組み

スライド条項は、契約締結後に資材価格が一定割合を超えて変動した場合に、請負代金を増減できる仕組みです。公共工事では全体スライド(残工事費の1.5%超)、単品スライド(特定資材の1%超)、インフレスライド(急激な物価変動時)の3種類が運用されています。

民間工事でも契約約款にスライド条項を盛り込んでおけば、資材高騰時に契約金額の変更を請求できます。「見積り時と着工時で鉄筋の単価が15%上がった」という場合に泣き寝入りしなくて済む仕組みです。

原価割れ契約の禁止と標準労務費

改正建設業法では、原価割れ契約の禁止が明文化されました。「通常必要と認められる原価に満たない金額を請負代金の額とする請負契約」は法律違反です。

あわせて導入された標準労務費制度は、中央建設業審議会が勧告する基準額を下回る労務費設定を禁止するもの。「安くしないと仕事がもらえない」という力関係で原価割れを受け入れる構造に、法的な歯止めがかかったことになります。

「変更方法」の法定記載事項化

改正法では、請負契約の法定記載事項に「資材高騰等に伴う請負代金等の変更方法」が追加されました。契約書に「変更方法」が書かれていない契約は、それ自体が不適切です。元請けが「価格変更には応じない」という姿勢を契約書に反映させること自体が難しくなり、価格転嫁の交渉がしやすい制度環境が整いました。

中小建設会社が取るべき5つの対策

制度的な追い風を活かすためには、自社の側でも体制を整える必要があります。「明日から取れるアクション」の水準で5つの対策を整理します。

1. 見積りの有効期限を短くし、変動条項を入れる

見積書の有効期限を「1ヶ月以内」に設定し直すだけで、資材価格変動のリスクを大幅に軽減できます。3ヶ月・6ヶ月先の着工を前提にした見積りは、そのまま赤字リスクの見積りです。

見積書に「本見積りは資材価格○○年○月時点の単価に基づきます。着工時に主要資材の市況が5%以上変動した場合、見積り金額の再調整を申し入れます」といった変動条項を入れておくことで、再交渉のきっかけを制度化できます。価格転嫁の交渉術では、交渉の切り出し方や根拠資料の作り方も解説しています。

2. 原価管理をデジタル化して「いくら残るか」を即把握する

資材高騰への対応で最も基本になるのが「現状の正確な把握」です。Excelでの原価管理は更新が遅れやすく、「この工事はいくら利益が出ているのか」をリアルタイムに把握できません。

原価管理ソフトを導入すれば、工事ごと・工種ごとの原価と粗利をリアルタイムに確認できます。材料費が見積り時点からいくら上振れしたか、残りの工程で利益が確保できるかを数字で判断できれば、「赤字になりそうな工事を早期に察知して手を打つ」ことが可能になります。

見積ソフトとの連携で、過去の実績単価をベースにした見積り作成が自動化できれば、「古い単価で見積りを出してしまった」というヒューマンエラーも防げます。

3. 複数の調達先を確保し、まとめ買い・先行発注を活用する

資材の調達先を1社に依存していると、値上げ交渉で不利な立場に置かれます。主要資材ごとに最低2社以上の調達先を持ち、相見積りを取る体制を構築しましょう。

まとめ買いによるボリュームディスカウントも有効です。複数の現場で使う資材を一括発注することで、1現場あたりの単価を下げられます。工事の着工前に「値上がりしそうな資材」を先行発注する判断も、原価管理のデータがあれば根拠を持ってできるようになります。

同業他社との共同購入も検討に値します。個社では交渉力が弱くても、地域の建設業者数社で購入量をまとめれば、商社や代理店と対等な交渉ができる場合があります。

4. 元請けとの価格転嫁交渉を仕組み化する

価格転嫁は「やりたいけど言い出しにくい」もの。しかし改正建設業法のもとでは、価格変更の方法を契約書に記載することが求められています。「法律で決まっているので」という切り出し方が正当化されたことは、下請けの立場にある中小企業にとって大きな変化です。

交渉を属人的なスキルに頼るのではなく、以下のように仕組みにすることが大切です。

  • 主要資材の市況を月次で記録する(建設物価調査会の資料等)
  • 一定の変動率を超えた場合に自動的に協議を申し入れるルールを社内で決める
  • 協議の際に提示する根拠資料のテンプレートを用意しておく

建設業法令遵守ガイドラインでは、元請け・下請け間の適正な取引の基準が12項目で示されています。交渉の根拠として活用してください。

5. 工法・仕様の見直しでコスト自体を下げる

「同じ品質をより安い資材・工法で実現する」というアプローチも重要です。設計段階での仕様変更提案(VE提案)は、資材高騰の影響を構造的に軽減する方法です。

たとえば、鉄筋コンクリートの一部をプレキャスト化することで現場の労務費を削減しつつ工期も短縮できます。断熱材の選定を見直して性能を維持しながらコストを10〜15%下げることも可能です。こうしたVE提案を元請けや発注者に持ちかけることで、コスト削減と技術力のアピールを同時に実現できます。

活用できる補助金・支援制度

資材高騰への対策に使える公的な支援制度を整理します。

IT導入補助金 — 原価管理・見積ソフトの導入

IT導入補助金は、クラウド型の原価管理ソフトや見積ソフトの導入費用を最大3/4補助する制度です。対策2(原価管理のデジタル化)を実行するうえで、導入コストの壁を下げるのに最適です。年度内に複数回の公募があるため、サービス選定と並行して申請準備を進めてください。

ものづくり補助金 — 生産性向上設備の導入

ものづくり補助金は、生産性向上に資する設備投資を支援する制度です。建設業でも適用可能で、ICT建機の導入やプレカット加工設備の導入など、工法の効率化に関連する投資に使えます。補助率は中小企業で1/2〜2/3、上限は750万円〜1,250万円(枠による)です。

セーフティネット保証 — 資金繰りの緊急対応

資材高騰で資金繰りが悪化した場合は、セーフティネット保証(4号・5号)の利用も検討してください。売上減少や原油・原材料価格の高騰を理由に、信用保証協会の保証枠を別枠で利用できます。通常の保証枠とは別に融資を受けられるため、運転資金の確保に有効です。

資金繰り改善の支援制度キャッシュフロー改善策も合わせて確認してください。

資材高騰はいつまで続くのか — 今後の見通し

正直に言えば、「いつ下がるか」を正確に予測することは誰にもできません。ただし、構造的な要因を整理すれば、以下の傾向は読み取れます。

円安の是正が進まない限り、輸入資材の調達コストが下がる見込みは薄い。世界的な建設需要はインフラ老朽化対策やデータセンター建設で拡大が続いており、国際市況の軟化も期待しにくい状況です。国内では2024年問題による物流コスト増が構造的に定着しつつあります。

つまり、資材価格が2020年以前の水準に戻るシナリオは想定しにくく、「高止まりが常態化する」という前提で経営を組み立てるのが合理的です。

その前提に立てば、対策の優先順位は「価格転嫁の仕組み化」と「原価管理のデジタル化」の2つに絞られます。スライド条項を契約に盛り込み、原価をリアルタイムに把握し、利益が出ない工事を早期に識別する。この仕組みがあるかないかで、同じ資材高騰環境でも利益が残る会社と残らない会社に分かれていきます。

よくある質問

資材高騰を理由に契約金額を変更できますか?
スライド条項が契約に含まれていれば、資材価格が一定割合を超えて変動した場合に請負代金の変更を請求できます。公共工事では全体スライド(残工事費の1.5%超)・単品スライド(1%超)・インフレスライドの3種類が運用されています。民間工事でも契約約款にスライド条項を盛り込んでおくことで変更請求が可能です。
スライド条項は民間工事でも使えますか?
はい。民間工事でも契約約款にスライド条項を盛り込めば利用可能です。民間(七会)連合約款の第29条にも物価変動条項がありますし、独自の変動条項を契約書に追記することも有効です。改正建設業法では契約書に「変更方法」の記載が義務付けられたため、交渉のハードルは以前より下がっています。
資材高騰で使える補助金はありますか?
直接的な価格補填の補助金はありませんが、対策に使える制度は複数あります。原価管理ソフトや見積ソフトの導入にはIT導入補助金(最大3/4補助)、生産性向上設備の導入にはものづくり補助金(1/2〜2/3補助)が利用できます。資金繰りが悪化した場合はセーフティネット保証で別枠の融資を受けることも可能です。
下請けの立場で価格転嫁を求めるにはどうすればよいですか?
改正建設業法により、契約書に「変更方法」を記載することが義務付けられました。交渉の際は建設物価調査会の資料など客観的な市況データを準備し、「法律に基づいて支払条件を調整したい」という切り出し方が有効です。駆け込みホットライン(国土交通省)や下請かけこみ寺(中小企業庁)で無料相談も利用できます。
資材価格はいつ下がりますか?
円安・世界的な建設需要の拡大・国内の物流コスト上昇といった構造的要因が重なっており、2020年以前の水準に戻るシナリオは想定しにくい状況です。高止まりの常態化を前提にした経営体制への転換(原価管理のデジタル化・スライド条項の活用・価格転嫁の仕組み化)が現実的な対応になります。

参考情報

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